パロって種デス 1
本編でザフトを脱走したアスラン。
しかし追っ手に追い詰められる。
そんな彼を助けに現れたのは意外な人物だった†
背後から断続的に聞こえる銃声。
全身に流れる汗はそのままに、アスランは必死に走っていた。
彼らの標的が自分なのは明らかだし、その理由も明白なのだが、微妙な躊躇いが見える狙撃だ。
間隙を縫いながら逃げてきたアスランは、物陰に身を潜めると少しだけ詰めていた息を吐いた。
途端に走る微かな痛みに眉をしかめる。
「………ッ!クソッ、やはりそう簡単には逃がしてくれないか……」
撃たれた右腕を左手で覆うと、滲んだ血が衣服に広がっていく。
射撃の腕があまり良くない相手だったから、この程度のかすり傷で済んだのだ。
だが、この状態のままただ逃げていても結果は見えている。
…捕まるのは時間の問題だ。
「……捕まれば、今度こそ処分されるかな…」
自嘲気味に吐き出す声も弱々しい。
本当は、どうでもいいのだ。
今の自分には、もう生きる意味もないのだから。
自分は生きていく為の全てを、命の半分を失ってしまったのだから…。
「……キラ…ッ」
何度口にした事だろう。
何度叫んだ事だろう。
何よりも大切で、誰よりも愛した、たった一人の人。
生きていく事の意味を与えてくれた彼。
大切な大切なキラ。
…けれどもう、彼はいない。
「…キラッ!…君のいないこの世界に、俺の生きていく意味はあるのか…!?」
問うても答えのないそれは、虚しく宙に消えていくだけ。
歯をきつく食いしばり、胸を突く喪失感を必死にやり過ごそうとする。
が、
「…誰がいないって…?」
唐突に耳に響くその声に、信じられない思いで顔を上げる。
「勝手に人を殺さないでよね、アスラン…」
ふわりと風に靡く茶色の髪。
透き通る紫に映る自分は、随分と間の抜けた顔をしている。
「…キ、ラ…?」
「うん、僕。てか、僕以外の誰だって言うのさ?」
呆然と呟いた声は、あっさりとした肯定に弾かれるように消える。
何も言えずただ食い入るように見つめる自分を、目の前に立つ人物が呆れたように苦笑するのを見ると、アスランはその細い身体を抱き締めた。
「ぅわっ!?…ちょ、アスラ……」
「…キラッ!」
慌てたように叫ぶキラを、けれど有無を言わせず強く抱き締め黙らせると、アスランは彼の名を呼んだ。
ありったけの、全ての思いを込めて…
「……僕はここにいるよ、アスラン」
ぽつりと呟かれた声は、少しだけ揺れていて。
きつく抱き締めた身体を少しだけ離すと、キラの瞳は僅かに光っていた。
「…キラ…キラ…キラッ!」
言いたい事は沢山ある。
伝えたい言葉も腐る程ある。
なのに、情けない自分からはただ一言しか出てこない…。
何よりも大切な、彼の名前しか。
再び抱き寄せると、キラは背中に回した手で、アスランの背を優しく叩いた。
まるで、タダをこねる子供をあやす母親のように。
「ごめんね、アスラン……」
そのまま囁かれた言葉に耐えきれず、アスランはキラの口を塞ぐ。
自らの唇で。
互いの瞳に熱が生まれ、それはそのまま唇にも移っていくようだ。
熱く、長いキスを終えると、アスランはキラに縋るように抱きついた。
「…謝るのは俺だ…あの時、俺は何も出来ずただ見ているしか出来なかったっ…情けないよ、自分がっ…!」
目の前に立つ愛しい人は、まるっきり弱音のような言葉を、ただ静かに聞いている。
「…でも、聞こえたよ?」
君の、声。
春風のように微笑みながら告げられたそれに、一瞬聞き返してしまいそうになる自分を、アスランは懸命に堪えた。
キラは問い返すように無言のままのアスランの頬に、そっと手を添える。
「…君の声…呼んでくれたでしょ、名前…」
「………ぁ…」
見上げるような格好のキラの紫の瞳は、どこまでも優しく光っている。
それを見ながら、確かに彼の名を叫んだ事を痛烈に思い出していた。
「………流石にちょっとヤバイかなぁって思ったあの時、君の声が聞こえたんだ…だから死ねないと思った。まだ僕は死ねないって…だって君を残して行ったら大変な事になりそうなんだもん…」
「…キラ…」
あの時の事を思うと、今キラがここにいて笑ってくれている事に、そんな奇跡のような現実に感謝したくなる。
またこうしてキラに触れられる事に、泣きたくなる。
「君なら後追いしかねないもんね?」
楽しそうに笑うキラは本当に綺麗で。
「…すまなかった、キラ…!」
こんなに綺麗な彼を、またこんな醜い世界に引き込んでしまった。
もう二度と悲しい思いをさせたくなくて、今度こそこの手で守ろうと思って戻ったザフトも、あろうことかキラを敵とみなし…。
結果キラを傷つけた…いや、その前にも自分はキラを傷つけていたではないか。
『討ちたくない…討たせないで…』
悲痛なまでのあの瞳を、自分は一生忘れられないだろう。
アスランはキラを直視できなくなり、勢いよく頭を下げた。
「…すまない!」
「…もう、いいよ…アスラン…」
「…許してくれる…のか?」
何度も傷つけてきたこんな自分を。
情けない気持ちで一杯になりながら、キラを見ると…思いがけず近くに来ていた瞳とぶつかった。
そのまま、頬に柔らかい感触を覚える。
「許すも許さないもないよ。…それに、謝るなら僕じゃなく皆にしてね?」
きっとカガリは一発くらい殴るかもしれないけどね…。
アスランの頬に優しいキスを送り、悪戯そうに唇をあげて笑ってみせると、キラはアスランに手を差し出した。
「ああ…そうだな……ありがとう、キラ……」
差し出された手を取りながら、アスランはようやく微笑んだ。
しっかりと握り締めた手。
幼い頃から、この手を握りしめながら何度誓った事だろう。
この手を離さない。
ずっと守り通してみせる、と。
今改めて思う。
キラを守る。
もう二度とこの手を離さない、と。
「…キラ、好きだよ…」
呟いた言葉に誰よりも綺麗に微笑んだキラが、何よりも愛しく思えたこの日、アスランは再び幼なじみの元に戻った。
アスラン・ザラ、ザフト軍脱走。
そして、キラと再会。
「行こうか、アスラン!」
「ああ…!」
手を取り合い歩き出す二人。
運命はまだ始まったばかり。
ホスト物語*キラ編*
「いらっしゃいませアスラン・ザラ様。クラブ大天使へようこそ」
「…キラは?」
「どうぞ中へ…キラも貴方をお待ちしておりましたよ」
「……そうか…」
「アスラン、いらっしゃい!今日も来てくれたんだね」
「キラ!相変わらず綺麗だな…」
「それ、昨日も言ってたね?君の方がよっぽど格好良くて素敵なのに…」
「そんな事はない。…綺麗だよキラ…本当に…」
「…ありがとう」
「そうだ、君に渡したいものがあるんだ…受け取って貰えるか?前に欲しいと言ってたチョーカーだ」
「えっ…昨日もあんなに高い時計をくれたのに!そんな、駄目だよ…」
「いいんだよ。キラになら俺の持ってるもの全てあげたいんだ」
「…アスラン!」
「君を愛してる。だから、この指…薬指だけは、あけておいてくれないか?」
「…アスラン…」
「君を幸せにしてみせるから…」
「…うん。ありがとう、アスラン」
「キラッ!」
「…ぁッ……!」
ホスト物語*アスラン編*
「いらっしゃいませお客様。CLUBミネルバへようこそ」
「あの…、ぁ…アスランは?」
「今お呼びします。どうぞ、中でお待ち下さい」
「えっ…いや僕は…その……」
「キラッ!」
「アスラン!」
「来てくれたんだねキラ、嬉しいよ」
「ぁ…その…ごめんね?」
「…何でそこで謝るんだ?」
「だって!だって…お仕事の邪魔にならない?」
「そんな訳ないだろう!キラに来て欲しいと言ったのは俺なんだから」
「…本当に?」
「勿論。さ、キラお腹空いてない?何か食べようか」
「ぇ…でも、ここ高いよね?」
「安心して?俺が奢るから」
「そんなっ…!」
「ダ〜メ。今日は俺に黙ってエスコートさせて?」
「…アスラン…」
「俺はただ、好きになった子に自分の仕事を見せておきたかっただけなんだ」
「好き…?」
「君だよ、キラ。まぁこの仕事も今日で最後だけど…」
「えっ…は?!辞めるのっ?」
「まぁね。そろそろ飽きたし、お金も貯まったし…」
「飽きた……」
「それに。キラと言う恋人も出来たし?ホストは出来ないよね」
「は、えっ、え?こい、びと…?」
「そう。…ねぇキラ、絶対幸せにするから俺のものになってくれないか?」
「アスラン…」
「返事は?」
「…ハイ…」
ホスト物語*アスキラ編*
「いらっしゃいませお客様。倶楽部夢有へようこそ」
「あ、あの人アスランの常連さんだ…」
「キラの常連も一緒だぞ」
「あ〜ぁ…秘密の休憩時間も終わりだね………いつまで腰撫で回してるの?」
「……なぁキラ、今日はもう早退…」
「馬鹿言わないの。No.1の君とNo.2の僕が揃って早退なんか出来る訳ないでしょう」
「折角いいところだったのに…」
「駄目。ほらもう行くよ?」
「………」
「アスラン。拗ねても駄目だよ?」
「キラ〜、アスラ〜ン、ご指名で〜す!」
「ほら、呼ばれたよっ!」
「……はぁぁ…」
「もう…仕方ないなぁ……帰ったら、続きさせてア・ゲ・ル」
「さぁ、今日もお客様に一夜の夢を与えに行くか!」
「…君、ホントにホストなの…?(この程度でひっかかるようでいいのかなぁ…)」
「俺はキラの旦那希望だ」
「……真顔で何言い出すのさ…」
「俺は至って本気かつ正気だ」
「………あーはいはいはい。じゃあ妻の僕の言うこと聞いてね。とりあえず早く行くよ!」
「ああ。……キラ、結婚式は二人だけの慎ましやかなものにしような?」
「……………はいはい…(気の済むまで言わせとこう)」
「好きだよキラ。愛してるよ…」
「…知ってます」
アスキラ式てんとう虫のサンバ
「アスラン・ザラ。貴方は妻となるキラ・ヤマトを心から愛し敬い、生涯を共にすると誓いますか?」
「誓います!」
「キラ・ヤマト。貴方は夫となるアスラン・ザラを心から愛し敬い、生涯を共にする事を誓いますか?」
「…はい、誓いま……」
「ちょっと待てぇぇぇえっ!」
「誰だっ、俺とキラの永久の愛の儀式を邪魔する奴は!」
「…ぁ…カガリ!それにラクス、イザークまで…?」
「…ッ!出たな…キラにまとわりつくウジ虫共め…」
「待たんかこのヘタレデコっ!あたしの可愛い弟をどーするツモリだっ!」
「そうですわ、アスラン!わたくしのキラ様を無理やり手込めにするとは…万死に値する罪ですわね…!」
「考え直せキラ。そんなヘタレと所帯を持ったりしたら、お前が苦労するだけだぞ?」
「貴様ら…!言わせておけば好き勝手言いやがって…!」
「…いやぁ〜、でもホラ。もう同棲始めた時点でこうなる事は分かってたし?それに…」
できちゃったものは仕方ないよねぇ。
『…何だと(ですって)?』
「いやだから、何の突然変異か知らないけど、僕できちゃったの…」
「ま、ままままま、待てキラ!お前はあたしの弟だよな?妹じゃないよな?」
「うん。カガリの双子の弟で、正真正銘男だよ?」
「…何かの間違いじゃないのか?」
「そうですわ。キラの気のせいではありませんの?」
「いや、間違いなくキラは俺の子供を妊娠してるんだ!」
「…まぁ、そーゆーことかなぁ。一応検査もしたし、間違いないよ。今3ヶ月だって」
「………そんなっ!キラが……妊娠したなんて…!」
「…何てことでしょう…」
「…嘘だろう…」
「いい加減にキラにまとわりつくのはやめて貰おうか!もうキラは俺のものなんだからなっ!」
「…ものって言い方は好きじゃないけど…まぁいいや…」
「………ッ!て事は何だ、あたしはお前の義姉になるってのか!?よりにもよってお前なんかのっ…!…誰か嘘だと言ってくれ!」
「…かなりムカつく言い様ですわね…後で覚えておきなさいませ…!」
「…アスラン、貴様分かっているのか?キラとの遺伝子にハゲの因子が混じるんだぞ!?そんな冒涜が許されると思っているのか!」
「…黙れ銀ガッパ。俺はその忌まわしき習慣病とはもうおさらばしたんだ!さぁキラ、式の続きをしよう…!」
「…はいはい」
「君も産まれてくる子も、二人共必ず幸せにするよ」
「…そんなの、当たり前でしょう」
「あぁ。当たり前だよな!」
あっはっはっはっはっ……(エコーするアスランの笑い声)
*
「…っつー不吉な夢を見たんだがな、キラ、お前妊娠なんかしてないよな?」
「何馬鹿な事言い出すのカガリ…有り得ないよそんな事」
「だよな!いや、アスランみたいな節操なし相手だし、何かお前ならデキそうな気がしてさ…あはははは!」
「……笑い事じゃないよ…(こんな事ラクスあたりに聞かれたら実行されかねないから!)」
「いやぁ、朝起きて慌てちゃってさぁ。ラクスに相談したら久々にキラに会って確かめて来いって言われたんだよな」
「…ぇ……?」
「あー、でも夢で良かった!」
「……(何だろう、凄く嫌な予感がするんだけど)」
*
「…良い感ですわねキラ様…。ダコスタ、あちらの用意は如何ですの?」
「あちらは、いつでもスタートできるとの事です」
「そうですか…ではキラ様世界救済計画を始めましょう」
「…あの…その名前は…?」
「まぁダコスタ、分かりませんの?」
「…はぁその…申し訳ありません…」
「つまり、キラ様とキラ様そっくりのお子様と平和な生活を送りたいというわたくしの長年の夢を叶えつつ、いずれはお二人の愛と美貌と徳によって世界は救われるのだということを、世の迷える皆さんに伝えていこうという素晴らしい計画ですわ!」
「…はぁ…(バルトフェルド隊長、最近のラクス様がよく分かりません!)」
「さ、参りますわよ。先ずは種馬…アスランから懐柔しましょうか」
「…はい…」
written by さとか様