1,000,000HIT御礼小説を戴きました。
種戦後設定でラブラブ(死語?)なイザxキラ♀。
戦後復興の最中、ラクス議長(笑)の下で任務に就いているイザークは・・・。


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新しい明日へ
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再び平和を取り戻した世界。
現在のプラント側の代表はラクス・クライン。
世界に平和を呼びかけ、そして歌い、祈り続けた歌姫だ。
落ち着いた色合いの衣装を纏い、今日も議会に出席していた。
戦火の傷跡が深い街の復興支援の為の会議であった。
衣食住すべての面においてのケアが急がれる。


「…では、今日の議会は以上ですわ」


静かな声とともに閉会する議会。
自身も疲れているであろうに、ラクスがそれを外に出す事はない。
それを隠して、自分よりもまず他者を気遣う。
ラクスは会議の資料を片付けると、後ろに控えていた青年に声をかける。
銀糸の髪を揺らす青年はザフトのトップの軍人。
常に冷静で護衛にあたる『氷の貴公子』ことイザーク・ジュール。
ラクスがプラントに戻るにあたり、イザークが護衛にあたることになったのだ。

それはイザークとある少女との約束。
美男美女のカップルのようにも見えるイザークとラクスだが、そんな甘い関係ではない。
政治家として尊敬し、また警備の対象者としか思っていない。
イザークはこちらを見たまま微笑んでいるラクスを不思議そうに見つめ返した。


「ラクス様?」
「…イザーク様」


何を言うのだろうかと待っていると、ラクスは再び笑みを深くする。
急がなければ次の予定に差し支えるというのに。
その心中を読めないラクスではないはずだが…。
そのラクスはイザークに向かって、何かのカードを手渡した。


「これは?」
「システム管理統括部へのカードキーですわ」


外交を含め、表立つ部門を担当するのはラクス。
最高のポジションにいるラクスに入れない場所はない。
だが、イザークは護衛に過ぎず、立ち入れない場所もある。
それが『システム管理統括部』の建物だ。

プラントの要たるシステムを管理するための建物。
その特殊性ゆえに、入れる者も限られている。
そしてその管理総責任者役割を担っているのがキラ。
表のラクス、裏のキラ。
現在のプラントは二人の少女によって手厚く護られているのだった。


「夕方からの会議はオーブ代表のご都合で、来週に延期されましたの」
「?」
「2日間だけです」
「…ラクス様?」
「キラにも休暇を命じましたの」


その言葉にイザークは気付いた。
目の前のラクスは楽しそうに微笑んでいるではないか。


「最近元気がないと報告を受けてますの。久しぶりにお逢いしてあげて下さいな」
「…ありがとうございます」
「私も久しぶりに自宅に戻ります。護衛は不要ですわ」
「畏まりました」


ラクスは現在の代表だ。
何かがあっては困る、そういう理由で最高の警備体制が敷かれている。
その主幹がイザーク。
仕事に誇りと責任を持つイザークだからこその推挙。
だが、忙しいラクスに合わせられたスケジュールはとんでもないものだった。
ほとんど休暇らしい休暇など取れない。
それはまだ不安定な世界情勢だからかもしれないが…。


「3日後の出発時にはキラも連れてきて下さいね。姉姫様が是非にと言ってましたから」
「はい。それでは失礼します」


イザークははやる気持ちでラクスの執務室を後にした。
静かに閉まった扉の向こうで聞こえるイザークの駆けて行く足音。
ラクスはそれを聞いてこっそりと笑った。


「イザーク様も人の子ですわね」


氷の貴公子もかの少女の前では、それが溶けるのだから。




エレカを飛ばしてアプリリウスの一角にある自宅に帰ると、イザークは自室から通信回線を開いて、とある部屋に通信を入れる。
言わずもがな、恋人キラの部屋にだ。
彼女もまた仕事ばかりの毎日で、自宅に帰れない日々が続いているらしい。
何度呼び出しても、キラが出てくる様子はなく、イザークは深い溜息とともに通信機器をオフにした。

次に押したボタンは彼女の仕事場だ。
数度の呼び出し音の後に出たのはキラではなかったが、キラはやはりその部屋にいる。
キラの補佐官をしている技師が言うには、奥の研究室に篭りっぱなしらしい。
少女の事だからまた食べるのも忘れているのだろう。
イザークは手早く着替えを済ませて、再び自宅を後にした。

向かうのはキラの仕事場。
キラの勤めている場所はプラントの機密だった。
プラントの各種メディアはもちろんのこと、気候や防衛などのシステムを構築・管理するのが仕事。
プログラミングではキラの腕に敵う者はいないため、彼女に白羽の矢がたった。
好きなことを生かした職業とはいえ、キラの細い肩にかかる責任は重い。
時折交わす通信もまた眠そうにしていることがあった。
無理をするなとあれほど言ったのにも関わらず…。

エレカを走らせる事20分。
アプリリウスの中心部のある建物にイザークは入っていく。
途中で買ってきたケーキはキラが前から食べたいと言っていた店のもの。
疲れた体には甘いものが必要だと言っていたからな。

『認証コードを入力して下さい』

建物自体に敷かれたセキュリティ。
イザークはコードを入力し、指紋・声紋・網膜パターンを読み込ませてロックを解除させる。
これほど厳重なのは、この建物が全プラントを支える要だからだ。
この建物の存在を知る者の数も限られているのが現状だ。
イザークは迷うことなくキラの研究室に向かう。
廊下の職員はイザークを知っているため、次々に敬礼していく。


「所長ならば、奥にいらっしゃいますよ」
「そうか」


ここでいう所長とは責任者であるキラのことだ。
イザークはキラの補佐官に礼を述べると、ドアを開けて室内に入っていった。
PCに疲れる目を癒す為に、観葉植物と大きめの水槽が置かれている部屋。
光の溢れる部屋には書類が散乱しており、少女の忙しさを物語っていた。
イザークは溜息をつきながらも、それを一枚一枚拾い上げていく。
この部屋の主は何処にいるのだろうかと周囲を見渡してみると、視界の端でかすかに身じろぐものがあった。

ソファの上に丸まった少女。
胸元には読んでいる途中の書類があった。
そのままでは風邪を引きかねないと思ったイザークは隣室においてあるブランケットをとってきて、キラの上にかけようとした。
しかし、かけようとしたところでイザークの手は止まってしまった。


「……………馬鹿が」


呟きとともに顔を赤くしたのは、少女が自分の軍服をかけて眠っていたからだ。
キラには大きい軍服は少女の体をすっぽりと覆い、袖から指先だけがちょこんと出ていた。
その可愛い様子にイザークの理性が揺らぐ。
とはいえ、眠ったままの恋人を襲う気はない。
イザークはぐらつく意思を懸命に戻しながら、キラにブランケットをかけた。
急に自分にかかった重みを不思議に思ったのか、キラの瞳がゆっくりと持ち上がった。
露になる菫色の瞳はイザークを映していた。


「起きたのか?」
「…ほえ?イザーク…??今日は午後から地球じゃ…」


イザークの問いに答えることはなく、まだ意識が覚醒していないキラはぼうっとイザークを見上げているだけ。自分を夢の中の存在だと思っているのだろうか。


「夢でも…嬉しいな…イザークが来てくれるなんて…」


ふわっと浮かぶ可愛い笑顔。
イザークは夢の中の自分の存在に嫉妬心を抱く。
本物ではない自分にそんな顔をさせているのが許せなかった。
ここに本物はいるのに、と馬鹿げた心がある。


「全然…逢えないし……」


寂しかったと呟くキラ。
起きている時では聞けないキラの素直な心。
我慢強いというか…我侭など聞いた事がない。
まだ世界が不安定であるのは変わりなく、そんな中で我侭など言えないのだと思っているのかもしれない。

だが、イザークからすれば、もっと我侭を言って欲しいのだ。
イザークは再び目を閉じようとするキラの頬を撫でる。
滑らかな肌は触れるだけで癒しの効果がある。


「…ん……」
「そんなモノに抱かれて満足するな」


軍服にまで嫉妬する心をイザークは苦笑してしまう。
キラが覚醒する前に軍服を剥ぎ取る。
温もりを求めて手が彷徨うのを見て、イザークはその手を取った。
肌理細やかな手はまるで戦争など知らぬかのように綺麗な手。
イザークはその手を口元に近づけて、そっと唇を落とした。
それまでぼうっとしていたキラは、その温もりに気付いたのか目をはっきりと見開いた。


「…イザーク!?」


慌てて身を起こそうとしたキラはソファから転げ落ちようとした。
イザークはその細い体を転落から防ぐ。
首にしがみ付くことで転落から逃れたキラ。
そこにいるイザークが幻ではないと思い知らされる。


「いつ来たの?鍵かかってるはずなのに…」
「議長から頂いた」
「へ?」
「聞いてないのか?クライン議長から2日ほど休みを賜ったからな」


キラはイザークの腕に抱きとめられながら、自分の予定を思い出した。


「…そういえば…そんなメールが来てたかも……あはははは」
「相変わらず休んでいないのか、お前は」
「…休んでるよ、ちゃんとぉ」


以前抱きしめた時よりも一回りほど細くなっているような気がする。
自分自身のことに恐ろしく顧みない少女。
本当に心配が尽きない。
イザークは内心溜息をついて、無言のままキラの体を担ぎ上げた。


「き…きゃぁぁぁぁ!?」
「…………暴れると落ちるぞ」
「お、下ろしてってばっ」


イザークの考えが分からないキラは暴れだす。
とはいえ大人しく聞くようなイザークではない。
ぎゃあぎゃあと騒ぐキラを他所にイザークはスタスタとエレカを止めている場所に向かう。


「夢の中の俺と、現実の俺のどっちが良いんだ」
「……っ」
「ここにいるだろうが」
「…うん」
「それでも夢の中の俺が良いか?」
「そんなワケないじゃない」


ぎゅっと抱きしめる腕があって、イザークは少しだけ頬を緩ませた。



「そういえば、お前に渡すものがある」
「なぁに?」
「開けてみれば分かる」
走るエレカの中、イザークはキラに小さな箱を渡した。
運転するイザークはそれを視界の端に収めながら薄く笑う。
キラに渡した箱は小さく、手のひらに乗る程度のもの。
薄い菫色の包装紙でラッピングを施された箱。
それを丁寧に開封するキラ。


「……イザーク…これって」
「見ての通りだ」


キラの開封した箱から出てきたのはカードキーと…


「何で知ってるのさ」
「お前の事だからな。触れば分かるぞ、それくらい」


左手薬指にぴったりのサイズのダイヤの指輪。


「勿論受け取るだろう?」
「返すわけないでしょ!」


キラの為に買ったマンションの鍵。
放っておけば無茶をしかねないキラを、もはや遠くに置いておくのは無理だった。
丁度信号待ちで止まったエレカ。
イザークは涙を零すキラの顔を上に向かせて、そっと口づけた。


「分かっていたが、お前の言葉で聞きたかったんだ」


イザークのエレカはマンションに向かう前に方向転換する。
行く先はアプリリウス市の役所だ。




休み明けの日にキラのファミリーネームが変わっていたのは余談である。
その左手の薬指には光り輝くダイヤがあったそうだ。
written by 花林堂:by秋奈さん

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Up Data 2006/03/21
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