七月七日。
今日は愛する人に唯一逢える日。
天帝の意により一年に一回しか許されていない逢瀬。
あの天の河が邪魔をする・・・・。
何故引き離されなければならないのか・・?
それは我が身が引き起こした事態かもしれないが、一年に一回は酷すぎる。
あの河を渡っていける力があれば、こんな思いはしなくていいのに・・・・・・。
愛しいキラ。
君は今どうしているのだろう?
天帝の言いつけ通り、仕事に励んでいるのだろうか?
寂しさに泣いているのではないだろうか?
誰かに苛められていないだろうか?
いつも思うのはそんなことばかりだった。
それでも君と逢うために毎日仕事をこなしてきた。
それは君も一緒だと思うから。
逢瀬が許される時間の10分も前から俺はこの忌々しい河の前にいる。
どんなに忌み嫌っても、君と逢えるのはここしかないから。
この天の河にはいつも霧のような靄が立ち込めている。
コレも天帝の怒りの表れなのか、この日にしか晴れることのない霧だ。
周囲は美しい星空が広がっているというのに・・・・。
この霧に一度入ったら二度と出られないと聞く。
それがもういつの頃からかは記憶に無いけれど。
不死に近い自分達はこうやって何度この河を目にしただろうか。
この河さえなければと、幾度嘆いたかわからない。
けれどそんな負の感情を救ってくれたのは優しくて微笑みが似合う、俺だけのキラだった。
それからはキラに逢える日だけを生きる糧にしてきた。
そうしてようやくこの霧が晴れる時が来た・・・・・・っ!!
自分の目の前からゆっくりと天岩戸が開いていく。
・・・・・・・あぁ・・待ち望んだこの時が、ようやく。
「キラっっ!!」
「アスランっ!!」
互いの声が聞こえる。
瞳にはお互いの姿しか映っていない。
そして走り寄る。
一年ぶりの愛しい人に触れたくて、離れている時間すら惜しくて。
天の河に足を踏み入れる直前に幾羽もの鳥が掛け橋となり、足場を両端から作っていく。
それはアスランとキラが足を進めるたびに硬いものに変化し、一つの山なりになった橋が出来上がるのだ。
皮肉なものか、天帝の力の強さは到底彼らには逆らえるものではない。
アスランとキラは息を切らせて走って。
しっかりと抱き合った。
「アスランっ・・・・・・アスランっ!!」
涙を堪えるように自分の名を呼び、背に回された腕に力が篭るのがわかる。
「キラ・・・・キラっ・・・・・・顔を、顔を見せて・・・・」
優しく問い掛けるように囁くと徐々にその首が持ち上がりキラの顔がのぞく。
「あぁ・・・・キラ・・逢いたかった・・・・ッッ!!」
涙に濡れたキラの顔を見た瞬間に込み上げる歓喜。
感極まったアスランの声がキラ似届く。
アスランの緑色の瞳にも涙が滲む。
「もっと・・よく見せて・・・・・・」
大きな掌でキラの頬を包む込むと、その両手にそっと細い指が重ねられる。
「アスラン・・・・ずっと、あいたかった・・・・・」
キラがじっと見詰めながらそう言った。
アスランの体温を感じながら。
アスランは細腰を引き寄せて、キラの唇を塞ぐ。
爪先立ちになりそうな身体をその逞しい片腕で支えて。
息をつかせぬ激しいキスにキラも懸命に応える。
互いの存在を確かめ、ぬくもりを求め、心を欲する。
一年と言う二人にとっては長すぎる時間の空白を埋めるように口付けを交わす。
角度を変え、舌を絡めて。
始めは早急だったそれも、回を重ねるごとにその勢いは緩慢になっていく。
そうして長い、長いキスを二人は味わう。
愛を与えるその行為を。
会えぬままに悪戯に時が過ぎ、その進みがどれ程陰湿に感じられたか知れない。
心の中に住まう愛しい者の暑さは更にその欲火を高める。
そうしてカクンとキラの身体から力が抜ける。
そうなってようやくアスランは唇を離した。
「・・・・アス・・」
トロンとした恍惚な表情を浮かべるキラをアスランは今一度しっかりと抱きしめた。
「どうして一年に一度なんだ・・・・・・俺には耐えられないっ!!」
「アスラン、僕だって・・・・」
そっと胸に添えられるキラの細い指先が着物の先からのぞいている。
その白さが以前にも増して白くなっているように思えて。
「キラ・・・・無理してない?ちゃんとご飯食べてる?前より痩せたんじゃないのか??」
矢次にアスランの口から飛び出てくる台詞にキラはふっと顔をほころばせた。
「大丈夫だよ。アスランこそ・・・・前より痩せたよ?」
そう言って首を傾げるキラは可愛くてしかたがないのに、でもその表情に哀しみが見て取れて。
「・・・・キラ・・・・・」
もうこのまま腕の中に閉じ込めてしまいたかった。
離れぬように、離れられぬように。
天帝の怒りを買おうが、キラと共に在れるのなら・・・・。
アスランがそう思った時、頬にパチンと軽い衝撃があった。
キラがアスランの頬を叩いたのだ。
「今いけない事考えたでしょ?ダメだよ、アスラン。僕はこうやって一年に一回でも会えるのが嬉しい。前に会えなかった時は本当に哀しくて・・・・。だから、会えるって判ってるから大丈夫」
「キラ・・・・・・」
アスランはキラの言葉に耐え切れずにその細い肢体を力いっぱい抱きしめる。
胸に一抹の不安を残して・・・・。
そしてそのまま覘いた首筋に華を刻んだ。
「キラ・・・・キラっ・・!」
その白い項に咲いていく花弁。
一年ぶりに味わうその肌の感触を確かめるように夢中でキスを散らしていく。
それに煽られてキラも正気ではいられないのだ。
「アスランっ!・・・・アスランっ・・抱いてっ!!」
直接的な言葉が口をついてでるけれど、それは本心。
身体も、心も愛しい人を求めているのだから。
既に周知の事実であるアスランとキラの恋仲。
けれど限られた時間しか合うことの出来ぬ二人が互いのぬくもりを求めるのは当然のこと。
キラの言葉にアスランの身体は顕著なまでに反応する。
だから 止めることなどないのだ。
そうして。
天の河に流れる星々の煌めきが見守る中で、二人の情事は熱に潤んだ。
「もう・・・・いかなきゃ・・」
そう掠れたキラの声が届く。
離したくない・・・・・・離れたくないっ!!
それを言葉ではなくアスランは腕に力を篭める事で意思表示した。
言葉にすればまた天帝の怒りを買ってしまう。
それだけはしてはならないことだからだ。
キラは乱れ崩れた着物をアスランに背を向けた状態で直している。
その淋しげな背を後ろから抱きこむ。
「アス・・ラン・・・・・」
涙に暮れた声が再び聞こえる。
今は滑らかな髪色しか見えぬ彼女に、アスランは小さく告げた。
「我が織姫・・・・命尽きるまで傍に。妻として」
「アスランっ!?」
「本気だよ、キラ。そうすれば僕たちは離れなくても済む。どうして今まで考えつかなかったのか不思議なくらいだよ。キラ、返事は?」
「愛しい彦星・・・・あなたに、・・とこしえに添い遂げます・・・・・・・っ!!」
キラはアスランの腕を解かせて彼の胸の中に飛び込んだ。
そうして恋人という関係から、夫婦という関係へ。
彦星と織姫が結ばれ、夫婦としての契りを交わした二人。
天帝もその愛の力に折れたのか、彼らの婚姻を認めたという。
悲恋の物語はここで終わりを告げ、新たな幸せな物語を紡いでいくだろう。
そしてその先はあなたの心の中で・・・・。
The End?
written by メサージュの鳥