サイト20万HTI御礼小説。
イザーク視点のアスキラ。キラは一般人です。アスランはキラ馬鹿。
少しばかしキャラが壊れていますので、純粋なイザ好きさんはご注意を。^ ^;
作者ご本人曰く「タイトルでもある「黄昏」のエピソードを書き忘れました(笑)」


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トワイライト
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久しぶりの長期休暇だった。

特に用事の無かったイザークは、急に与えられた長い休みを趣味である民俗学研究に当てることにした。
軍人――それも紅服という特権をフルに活用し、一般市民では入手困難な古い文献を取り寄せることに成功した彼は、中立国のコロニーにやって来ていた。
先ほど取り寄せた文献を受け取りに行ったが、この手の文献はすべて地球にあるため、足下を見てきた業者が法外の高値を言い出したのだ。
もちろん、そんな輩などイザークがくれてやった一瞥で大人しくなったのだが。

「ちっ、やはりナチュラルは好かん」
イライラとしながら早足で歩くイザークを、周囲の人間が驚いた表情をして道を開ける。
イザークのいかにも不機嫌だというオーラとその秀でた容姿の故なのだが、分かっていない彼である。


プラントよりの中立国とはいえ、周りは殆どナチュラルだ。
ナチュラル嫌いのイザークには居心地悪いことこの上ない。
こんな場所は、さっさと去るに限る。
予定では明日の便で帰るつもりでいたが、今からならキャンセル待ちでシャトルのチケットが取れるかもしれない。
決めたらすぐに行動に出るのがイザークだ。
ホテルに連絡して空席状況を確認させ、席があるのを確認するとそのまま空港へと向かった。


本当ならファーストクラスが良かったが、ここは目を瞑ることにする。
チケットを取るのが急だったが、運良く窓側の席を取ることが出来た。
通路側は嫌いなのだ。当然、真ん中など論外である。

「おい、お前」
イザークが取った隣の席。
先に座っている少年(――だと思われる)に声をかけた。
彼が膝に突っ伏しているため、奥に行けないのだ。
「おい」
寝てるのかもしれないが、退いて貰わないとこちらが席につけない。
もう一度声をかけると、彼がのろのろとした動作で顔を上げた。
目が赤く、大きな瞳が涙で潤んでいる少年を見てぎょっとなる。
(なんだこいつ・・・泣いていたのか?)
少年はイザークの姿を認めると、目を数度瞬いてから恥ずかしそうに目元を拭う。
「すみません・・・」
小さく謝って、身を引いた。


(ったく、なんなんだ。男のくせにメソメソ泣きやがって)
怪訝に思いながらも自分には関係ないことだと切り捨てて、シートに座る。
離陸のアナウンスが流れると、少年は再び顔を覆った。
泣いているのか、いないのか。
少年の肩が、わずかに揺れていた。


プラントまでは数時間を要する。
その間の暇つぶしにと、空港で買っておいたニュースペーパーを取り出した。
入手した文献を読めばいいのだろうが、楽しみな事は後に回すタイプなのだ。
それに家に帰ってからゆっくり読みたい。
ニュースならシャトル備え付けのモニターでも見れる。
わざわざペーパーというローカル媒体にしたのはただ単にその方が情緒があって好きだったからだ。
意外にこだわりが多いのである。

内容は日々深まっていく戦争の記事が殆どだ。
中立国のニュースペーパーなだけあって、地球側、プラント側両方から見た視点で書かれており、なかなか面白かった。
―――まぁ、その分腹立たしい記事も多かったのだが。
(またブルーコスモスのテロか・・・コーディネーターが居るから悪いだと?ふざけたことを・・・)
戦火を逃れている中立国であっても、コーディネーターを狙ったテロが続発している。
紙面の片隅に、十数名の死傷者を出したテロの事件が載っていた。


着艦を告げる機内放送の音で目を覚ました。
ニュースペーパーを読み終え、うつらうつらしている内に寝入ってしまっていたようだった。
「・・・以外に早かったな」
時間を確認して、何気なく隣を見やる。
やはり泣いていたのだろうか、目を赤くさせた少年が眉間に皺を寄せて眠っていた。
(どうでも良いが・・・こいつ、起きないのか?)
起きて先に出てくれないと、イザークが出られない。
また自分が彼を起こさなければならないのだろうか?
まったく。面倒だが仕方がない。
「おい・・・」
少々乱暴に揺する。
「んっ・・・るさい」
少年が身じろぎをして、イザークの手を払った。
(この野郎、寝ぼけていやがるな)
―――蹴り飛ばしてくれようか。
考えたものの、赤の他人を蹴り飛ばすわけにもいかず、ぐっと思いとどまる。
「おい、起きろ」
もう一度揺さぶると、少年の瞳がゆっくりと開いた。
涙で潤んだ少年の瞳の色は、悪友と同じバイオレットだった。

「・・・・・・?」
焦点の合わない瞳のまま、少年は不思議そうに辺りを見回した。
「え?・・・あ!」
小首を傾げ、もう一度周囲を見回してようやくイザークの存在に気がつく。
同時に、今の状況も理解したようだった。
「ごめんなさい!」
慌てて立ち上がり、急いで降りようとする少年にイザークは声をかけた。
「おい、荷物を忘れているぞ」
「あ!すみませんっ!」
ほら、と荷物を手渡してやると少年はぺこりと頭を下げる。
初めは同年齢くらいかと思っていたが、3、4歳くらいは下かもしれない。
見ていると、行動がガキくさいのだ。
(おいおい、親は何処に行ったんだ何処に・・・)
今の時代10の子供でも一人でシャトルに乗れるのだが、思わずそう思ってしまうくらい、少年が頼りなく見えた。


シャトルを降りると、先に降りた少年の姿が目に入った。
きょろきょろと、手元の紙切れを見ながら辺りを見回している。
まるで、初めて田舎から都会に出てきました、という感じだ。
悪質なセールスにでも捕まるのではないと柄にもなく心配してみたりして。
仕方ない。ため息をついて少年へと歩み寄る。
本来こんな面倒なことなどしないのだが、いったん気になってしまった以上、消化してしまわないと気が済まない。

「おい。どうした?」
声をかけると、少年が驚いた表情をして振り仰いだ。
「え、っと・・・」
「困っているのだろう。言ってみろ」
「あの、」
歯切れの悪い少年にイライラとしながら続きを待つ。
イザークの威圧に(もちろん本人には無自覚なのだが)たじろぎながら少年はポケットからIDカードを差し出した。
カードの表面には『Refugee recognition』―――難民認定の文字。
「・・・難民受入の、手続きをしたいんです」
オーブ政府発行のそれは、少年の今の状況を示していた。



少年の名はキラ・ヤマト。
元々オーブ籍の彼は、ナチュラルの両親と中立のコロニーで暮らしていたという。
たまたまプラントの議員が視察に訪れていた場所に両親と共に居合わせ、ブルーコスモスのテロに巻き込まれたのだと彼は言った。
「テロで父さんも、母さんも・・・僕だけ助かってしまって・・・」
両親以外身寄りがなく、頼れる人もいない。
オーブの職員からプラント行きを進められたのだそうだ。
「まぁ、これから戦争も激化していくだろうしな。お前がコーディネーターならプラントが一番だろう」
イザークの言葉に、少年――キラは悲しそうに顔を俯かせた。


此所まで話を聞いてしまった以上、乗りかかった船だ、仕方ない。
軍人という立場もある。彼が落ち着くまで面倒を見てやってもいい。
それだけの力も、権力もイザークにはある。
しかも、計ったとしか思えない丁度良いタイミングで、時間もあったのだった。


プラントに難民として受け入れてもらえるよう一連の手続きを済ませ、キラを家に連れて帰ることにした。
「あの、やっぱり悪いですよ」
「だから何度も言っているだろう。俺が良いと言ってるんだ」
先ほどから続くこの会話。
キラが悪いからと拒否し、それをイザークが否定する。
結局、先に折れたのはキラだった。
「お礼は出世払いにしておいて下さいね」
礼など必要ないと言ったのだが、これだけは譲れないとキラは言う。
「だから、そんなものはいらんと言ってるだろうが」
「僕の気が済みませんから」
「ったく、頑固だな・・・」
ぽやぽやしているくせに、キラは意外に強情だ。
まぁ、自分の意見をはっきりと貫く奴は嫌いじゃない。


はっきり言って此所まで世話してやるなど、普段のイザークなら考えられない。
イザーク自身、手続きと身を寄せる場所を確保してやり、金銭面や生活面でのフォローを入れてやればいいだろうと思っていた。
だが気が変わったのだ。それもかなり勝手な自分の都合で。

「家に着いたらアスランの奴に連絡するからな」
「・・・はい」

不安そうにしているキラの事など、今のイザークの目には入らない。
一体、アスランはどのような反応を示すのだろうか。
慌てるだろうか、自分に感謝するだろうか、それとも何の感情も示さないだろうか。
『月での幼馴染み』を助けてやったんだ、頭の一つくらいは下げて当然。
そんな奴知らないと答えるかもしれないが、それはそれでなんて冷たい奴だと罵倒できるネタが増えて良いだろう。

(フフフ。貴様がどんな反応をするのか楽しみだ。首を洗って待っていろアスラァン!)

―――そう。
全ては同じ隊に所属し、常に自分の前に居て目障りなことこの上なく、いつも取り澄ましてそこがまた腹の立つ・・・(以下略)アスラン・ザラにいちゃもんを付けるがため。
(ついでに恩も擦り付けられたら上々だ)

キラ・ヤマトとアスラン・ザラの関係を知ったのは偶然だった。
イザークが入国の手続き云々をしている間、特にすることのないキラは壁に取り付けられたTVモニターを見ていた。
その時流れていたラクス・クラインのVRに彼女の婚約者である、アスランの映像が流れたのだ。
たまたまイザークもその映像を見てしまい、休暇の時までこんな奴の顔を見たくないと顔を顰めさせたのだが・・・
『ア、スラン・・・?』
呆然と画面を見つめながら、キラ・ヤマトがその名を口にした。
『?お前、アスランを知っているのか?』
プラントの住民でなければ、アスランのことなど知らないだろうに。
その後、イザークは衝撃の事実を知る。



緊急時用にと教えられていたオフ時の連絡先。
まさか自分があのいけ好かないアスラン・ザラに連絡をするなどとは考えもしなかった。
キラ・ヤマトを自宅のゲストルームへと案内し、一人自室に戻ったイザーク。
手帳に記されたナンバーをプッシュしながらキラとの会話を思い出していた。


―――僕とアスラン、幼年学校が同じで・・・えっと、幼馴染み、だったのかな・・・?
小首を傾げてキラ・ヤマトはそう言った。
『貴様がアスラン・ザラの幼馴染みだとぉ!?』
思わず声を張り上げたイザークの勢いに、身を引きつつもこくりと頷く。
『仲・・・良くて・・・互いの家に泊まりに行ったりしていたので・・・』
『・・・・・・』
(アスランと仲が良かっただと!?こ、こいつがかぁ!?)

信じられない気持ちで目の前の少年を見る。
キラはイザークの視線を受け、居たたまれなさそうに瞳を彷徨わせていた。
(こんなぽやぽやした奴が・・・信じられん)
イザークが知る限り、アスランと仲の良い人物と言えばニコルとラスティ、あとはミゲルだ。
彼らに共通するのは人当たりの良さだろう。
その面から見ればこの少年もニコル達と同様、誰とでもうち解けられそうなタイプだが・・・この腰の低さ。
自ら寄っていく様には見えない。
アスランは他人に無関心な奴で、一線を引く奴だ。アスランに近寄る奴らは大抵この壁にぶち当たって諦めるのだが、ニコル達は気にすることなく接していたから今の状況がある。
・・・まぁ、彼らがアスランと同じくずば抜けて優秀な奴らだった、という事も関係しているとは思うが。
イザークに対して萎縮しているキラが、アスランと友人だったとはどうにもイメージが湧かなかった。

(だが・・・あいつらが仲が良かったのは数年前。と、なると奴もまだガキだった頃だな)

一体どんな子供時代だったのやら。
別に知りたくもないが、何かからかうネタがあるかもしれない。
あとであいつに聞いてみるか・・・にやり、人の悪い笑みを浮かべたのだった。



『・・・アスラン・ザラだ』
数回のコールでアスランは通信に出た。
「アスランか、俺だ」
発信先の表示が出ているだろうから、特に名乗らなかった。
と、いうか分かれ。
『・・・イザークが俺に直接連絡を入れてくるなんて・・・珍しいな』
「ふん。別に好きでお前に連絡を入れている訳ではない」
言ってやると少しの沈黙の後、ため息。
『で?何の用だ』
ぶん殴ってやりたい衝動に駆られたが、相手は通信の向こうでそれは叶わない。
「出先でキラ・ヤマトという名の難民を保護した。貴様と縁があるようだからわざわざ連絡を入れてやったんだ。感謝しろ」
引きつるこめかみをやり過ごしつつ、単刀直入に切り出す。
『・・・は?キラ?』
ぽかんとしたアスランの声色。
なんだ、忘れてるのか。薄情な奴め。
「用はそれだけだ。じゃあな」
完結に終わらせて一方的に通信を遮断する。
『ちょっ・・・キラってあのキラか?待てイザー・・・!!』
なにやら叫いていたアスランは無視した。


ふん、と一つ鼻を鳴らす。
アスランの慌てる声を久しぶりに聞いて気分が良い。
と、直ぐにアスランから通信が入った。
「今頃気がついても遅いんだ阿呆が!」
折り返し連絡が来るとゆうことは、キラの事を思い出したのだろう。
本当に心当たりが無ければ放っておくだろうから。
そうゆう男だアスラン・ザラは。(とイザークは思っている)
イザークは無情にもアスランからの通信を拒否設定にした。
これでアスランはイザークに連絡が入れられなくなった筈だ。
「少しは慌てるんだな」
ふふん、と勝者の笑みを浮かべ、イザークは自室を後にした。


キラに提供したゲストルームのドアを開けると、キラはベッドに腰掛けて手に持った機械鳥を見つめていた。
壊れているのだろう、折りたためる筈の羽がだらりと垂れ下がっている。
「何だそれは」
聞くと、キラは寂しそうに微笑んだ。
「僕の大切な宝物なんです。テロで壊れてしまって・・・」
本当に大切なのだろう、キラは愛おしそうに機械鳥の頭部を撫でた。
「そうか。直せる所を探してやる」
イザークの言葉にキラはふるふると首を振る。
「ありがとうございます。でも、自分でやってみますから」
「出来るのか?」
「・・・ええ、多分。マイクロユニットは苦手だけれど、以前も直せましたし、大丈夫だと思います。だから道具を貸して頂けると嬉しいのですが・・・」
「ああ、分かった。手配させる」
ちらりと見ただけでも複雑な作りになっている機械鳥だったが、キラが自分で直すと言っているのだから尊重してやった方が良いだろう。
上目遣いに伺ってくるキラにイザークは頷いてみせた。


「今、アスランに連絡を入れてきた」
言うと、キラはびくりと体を震わせた。
「そう、ですか・・・あの、アスランは何か言っていましたか・・・?」
「いや。特には」
アスランに喋らせる暇を与えなかったこと、こちらから強制的に連絡手段を断絶していることは置いておくイザークである。
「そ、うですよね・・・アスランも、大変だったんだし・・・」
昔とは違う・・・
床に視線を落とし、キラは寂しそうに呟いた。
アスランがザフト軍に所属しイザークと同じ隊だということや、ユニウスセブンで母親を失っていること、父親が国防委員長で最高評議会議長の娘と婚約していることなど、イザークの主観でキラには話してある。
「お前を俺が保護する事は伝えておいた。何かあれば向こうから連絡してくるだろう」
できればだがな、とは心の内で呟いて。
落ち込んでいるらしいキラの頭をがしがしと撫でてやった。


その後、帰宅したエザリアに事情を話し、キラと会わせた。
イザークは休暇が終われば戦場へと戻らねばらない。
家で世話をする以上、ある程度は母親の協力も必要だと思ったからだ。
ぽやぽやしているキラだが、躾はしっかりされていたようで、謙虚で礼儀正しいキラをエザリアはいたく気に入ったらしい。
この分なら心配いらないだろう、とイザークは胸を撫で下ろした。
実は、キラがエザリアのお眼鏡に叶うかどうかが一番の不安要素だったのだ。


「ほら、使え。足りない物があれば取り寄せる」
使用人に用意させた工具をキラに手渡してやる。
「え?もう用意してくれたんですか?ありがとうございます」
驚きながらもキラは嬉しそうに受け取った。
「だが今日はもう遅い。疲れてるだろう。風呂に入ってさっさと寝るんだな」
「はい」
その返事に満足して頷く。
素直な子供は嫌いではないのだ。
アスランに連絡を入れたり、キラを離さない母親に付き合ったりと中々自分の時間を取れなかったが、今日はもう良いだろう。
これでやっとあの苦労して手に入れた文献を読むことが出来る。


・・・筈だったのだが。

「・・・なんだ、こんな時間に」
時刻は深夜1時過ぎ。
丁度読んでいた文献も良いところだったのに。
「申し訳ございません。ですが、どうしてもと仰っておりまして・・・」
恐縮した風の執事が必死に頭を下げる。
どうやら訪問者がいるらしい。
「そんな常識知らずは追い返せ」
こんな時刻に非常識も甚だしい。
「私もそう申し上げたのですが、お相手がお相手ですし・・・」
話は終わりだと態度で示したが、使用人は尚も食い下がってくる。
「?誰だって言うんだ」
その必死さに流石のイザークも眉間に皺を寄せた。
「アスラン・ザラ様でございます」
使用人の口から出た人物の名に、イザークの眉間の皺がこれ以上ないくらい増えたのだった。


来客用に設えてある一室。
「何で貴様が此所にいるアスラァン!」
「何でって、来たからに決まってるだろう」
いつもの、馬鹿じゃないのか?という、人を小馬鹿にした表情でアスランが立っていた。
「貴様、ディセンベルの自宅にいたんじゃないのか!?」
「いたさ」
アスランの阿呆はさらりと言ってのけたが、ディセンベルとマティウスは別コロニーだ。
ほいほい行き来できる距離ではない。
「どうやって此所まで来た!」
「シャトルに乗って来たに決まってるだろう」
「そんな事は分かっている!!」
「なら何だって言うんだ」
あくまで淡々と話すアスランにぶち切れそうなイザーク。
ぎゃんぎゃん叫いているのがイザークだから、端から見ればイザークに非がありそうに見えるのが不憫だ。
「こんな時間に連絡一つ寄越さんで、非常識にも程があるだろうが!」
「通信を遮断しているお前が悪い。こっちはあれから何度も通信を入れたんだぞ。何故そんな事をする」
「そんなことっ!」
理由は一つ。
アスランの困る顔が見たかったからだ。
が、口には出さなかった。
アスランから今まで見たこともない怒りのオーラが出ていたからだった。
(何故だっ!)
イザークは内心冷や汗を垂らした。
確かに通信を遮断したイザークも意地悪だったかもしれないが、こんな時間に押しかけるアスランもアスランだと思う。
イザークの家に訪問するのを翌朝に持ち越しても良かった筈だし、通信を遮断しているのはイザークのプライベートアドレスだけだ。
ジュール家に連絡を入れるなりなんなり出来たはずなのだ。
(そうだ、俺は悪くない!悪いのはこいつだ!!)
悪いのは自分ではなくアスランだと、気を持ち直したイザーク。
「兎に角、今日はもう帰るんだな。手みやげでも持って出直してこい!」
引き気味になっていた己を叱咤し、普段と同じように胸を張る。


と、突然アスランに両肩を掴まれた。
「イザーク・・・」
「な、なんだっ!」
低く太いアスランの声。
掴まれている両肩にアスランの爪が食い込んで痛みを訴えている。
「俺はあまり気が長い方じゃないんだ」
そんな話は初耳だ。
それに、その台詞を言うのは普段ならイザークの方の筈だ。
いつもイザークが勝負をふっかけても軽く受け流すくせに。
「そ、そんなに言うなら話だけなら聞いてやる!」
イザークを見るアスランの目が尋常じゃない。
こいつは本当にアスラン・ザラか?アスランの皮を被った別人じゃないのか?
なんて馬鹿なことを疑いつつ、アスランの腕を振り払う。


「キラに会わせろ。お前の家に居ると言うことは調べてあるんだ」
懐から一枚の紙切れを取り出してアスランは言った。
紙切れ・・・もとい、プリントアウトされた書類の一部だろうそれに目を走らせる。
プラントで受け入れた難民の一覧。
そこにはキラ・ヤマトの名もあり、プラントでの保護人にイザークの名と滞在先が記されている。
思いっきり個人情報のそれを目の前の男はどうやって手に入れたのだろうか。
疑問に思ったものの、
「キラに何かしていたら只じゃおかないからな」
・・・訪ねる気にはなれなかった。


「なんで俺がキラ・ヤマトに何かしなきゃならないんだ!!」
それでも言い返すのは忘れないイザークである。
「ったく、人道的に保護してやったのに何故そんな言われ方をされなければいけないんだ」
確かにキラを引き取った理由の半分(以上)にアスランの存在があったが、それでもイザークなりにキラの境遇に同情してやっていたのに。
「キラの無事を確認したら信じてやるさ」
この瞬間、イザークの中のアスランに対する嫌悪感が今までで最大に膨れあがったのは言うまでもない。

「言っておくが、キラ・ヤマトはもう眠っているぞ」
「構わない。兎に角、無事な姿を確認したい」
それでもどうにか最大限の努力をして、イザークは己の怒りを押し殺した。
己で己を褒めてやりたいくらいだ。
「今日は母上もいらっしゃる。あまり騒ぐなよ」
「何時も騒ぐのは君の方だろう」
「・・・・・・」
ああ、此所が戦場だったら、思う存分こいつだけを狙って撃ってやるのに。


「おい・・・貴様は何をしている?」
もう寝ていると思っていたからノックはしなかった。
目的の人物は、ベッドに工具を広げて壊れた機械鳥と格闘中だったのだ。
「い、イザークさんっ」
「もう寝ろと、言わなかったか?」
ビクっと肩を竦ませる様子が、まるで悪戯が見つかった子供のようだ。
「ごめんなさい・・・」
ため息を吐いてみせるとキラはしゅんと項垂れた。


「キラっ!!」

ごッ。

突然の衝撃と頭部の痛み。
アスランに突き飛ばされたのだと気がついたのは、キラを抱きしめるアスランの姿を視界に認めたからだった。

「え?・・・あ、アスラン!?」
「ああ、俺だよ。良かった、キラっ・・・!!」

だから、騒ぐなと言ったとゆうのに・・・
「イザーク。何を騒いでいるのです?」
「・・・なんでもありません、母上」
ネグリジェにガウンを羽織って顔を覗かせたエザリアの肩を抱き、イザークはその場を離れた。
「何でも無くは無いでしょう」
「本当に、お気になさらず」
そう、何も無かったのだ。
自分は何も見なかった。
痛むこめかみも気のせいだ。
あれはアスラン・ザラの幻に違いないのだから。



朝、目を覚ますと頭部に瘤が出来ていた。

自分の寝相の良さには自信があるつもりだ。
寝ぼけてどこかにぶつけるなど今まで無かったし、これからもあり得ない。
では、このどデカいたんこぶは何なのだろう。
「・・・・・・・・・?」
暫く考えて、唐突にイザークは昨夜の出来事を思い出した。
いやまて、あれは夢の筈。そう夢の筈。なのに瘤が出来ているのは何故だ。
昨夜のあれは夢では無かったとゆう事か?

「・・・おのれアスラァアン!!」

爽やかな朝・・・とは言い難い、朝と呼ぶには少しばかり遅い時間にイザークの叫び声がジュール邸に響き渡った。



「あら、おはようイザーク。今朝は遅いのね」
遅い朝食を取ろうとイザークがリビングに入ると、珍しくまだ家にいる母親が紅茶を飲んでいた。
紅茶は一人分。
と、いうことはまだキラ(とアスラン)も来ていないらしい。
昨夜は錯乱したアスランをキラの部屋に放ってしまったが、あれから彼らはどうしたのだろう?
勿論、アスランに部屋を用意などしてやっていない。
「昨夜のお客様はアスラン・ザラだったそうね。彼が家を訪ねて来るなんて初めてではなくて?」
飲み終えた紅茶のカップをカタリと置いて、エザリアが言った。
「ええ。突然夜中に訪ねてきて、非常識な奴です」
この家の家主であるエザリアに挨拶もまだしていないらしい。
全く非常識な奴だと腹を立てつつ、イザークは自分用にと運ばれてきた紅茶を啜った。

「ところでキラ君はどうしたのかしら?まだ起きていないの?」
「ええ、まだのようですね」
「イザークはどうするつもりなの?」
「どう、とは?」
突然言われた事にハテナマークを浮かべたイザークを見て、エザリアは大仰にため息を吐いた。
「キラ君の事よ。これからどうするつもり?家で引き取るのは良いけれど、その後の事は考えているの?」
「身元の保証人にさえなってやれば、後は自分の良いように動くでしょう。政府から援助も出るんです。それに、彼は子供ではないのですよ」
キラは16歳。プラントでは一人の成人として扱われる。
あれこれ手を焼いてやるのは彼のためにもならないと思うし、なによりイザークがキラの立場だったら誰の手も借りたくない。
自分もそうだから、キラもそうだろうとイザークは思い込んでいたのだった。
「確かにキラ君の年齢なら働くことも出来るけれど、彼がオーブの子ならまだ学生をしている年齢ではなくて?」
よく考えなさい、とエザリアはイザークを睨め付ける。
いずれは自分の後を継いで欲しいと考えているのに、目の前の自慢の息子は人の気持ちを察するのが下手だ。
人の上に立つ者としての、必要な能力が著しく欠けている気がする。
優秀な子なのに・・・育て方を間違えたかしら・・・?
「俺は彼の意志を尊重してやりたいだけです」
エザリアの言いたいことなどまるで分かっていないイザークの言葉。
「そう。イザークがそこまで言うなら、もう何も言いません」
親の心、子知らず。
優しい子であるだけ(少々不器用だが)マシなのかもしれない・・・


「出かける前にキラ君の様子を見たいから、イザーク、呼んできて頂戴」
「俺がですか?メイドにでも任せたら・・・」
「貴方に頼んでいるの」
イザークは困惑していた。
「イザーク、返事は?」
「は、はい!」
何故急に母親の態度が変わったのだろう?
分からないが、ただ一つだけ確かな事。この様な状況の時、エザリアには逆らわない方が身のためだという事なのだった。



だが、イザークは後悔していた。
不用心にもこの部屋のドアを開けたことを。

いや、一応ノックはしたのだ。
だが応答が無かった。
だから勝手に入ったのだが、やはりメイドに任せるべきだった。

・・・いやいやいや。
日々ジュール家に奉公してくれているメイドにそんな役割を与えるのは酷だ。
この時ほどディアッカが居てくれればいいと思ったことは(結構あるが)無い。

目の前のベッドにはすやすやと寄り添って眠る二人の人物。

「・・・お前らあぁぁぁ・・・」

まるで子供が母親に抱かれているかのように安心しきった表情で眠るキラ・ヤマトと、これ以上ないほど幸せそうな表情で、キラに腕枕をしてやりつつ、彼を全身で包み込むように寄り添って眠っているアスラン・ザラ。

普通の人間なら思わず「お邪魔しました」と引いてしまいそうな光景だったが、イザークは強かった。
今まで見たこともないアスランの表情に全身鳥肌を立てつつも、二人がくるまっていた毛布を思いっきり引っぺがしたのだ。


「いい加減に起きろおぉぉおっ!!いい年した男が引っ付いて眠るんじゃぬわぁあぁああいぃぃい!!」

「・・・な、なに?何事!?」
イザークの大声に驚いて飛び起きたキラ。
「・・・・・・五月蠅いぞ、イザーク。キラが起きてしまっただろう」
ワンテンポ遅れてのそりと身を起こしたアスラン。
「トリィ!」
ついでに、何時の間にやら直ったらしい機械鳥も飛び立った。

「貴っ様ぁ!今何時だと思ってるんだ!俺は起こしに来てやったんだぞ!!何だその言いぐさはっ!!」
アスランの余計な一言で、今まで忘れかけていたイザークの、アスランへの対抗心があっさりと甦る。
「昨夜は明け方まで話をしていたんだ・・・もう少し寝かせてくれても良いだろう」
「此所は俺の家だぞっ!!大体俺が何時お前に泊まって良いと言った!?」
「泊まる宿も取っていないのに、お前は俺に出てけと言うのか?」
「貴様が勝手に押しかけて来たんだろうがぁ!!」
「あー五月蠅い五月蠅い。分かったよ、俺が悪かった。あまり大声を出すな。キラが怖がるだろう」

懐に手が伸びる。
此所でアスランを射殺してしまっても、アスランの足取りはマティウスの空港で途絶えている筈。
証拠隠滅を計ってしまえばバレはしないだろう。
が、残念なことに今のイザークは私服なうえ、自宅の中だったので銃を持っていなかった。
激しく舌打ちを打ちつつ、『キラ』の台詞で本来の目的を思い出す。
そうだ、自分はキラ・ヤマトを呼びに来たのだ。
仕方がない、一旦引こう。
今度から銃は必ず持っている事にしよう。
そうだ、そうしよう。
これで何時でもアスランを狙撃できるというものだ。


「おい、キラ・ヤマト!母上がお呼びだ。早く支度をしろ」
くるりと顔を向けると、キラはぼんやりとこちらを眺めている。
「エザリア様がいらっしゃるのか?じゃあ俺も挨拶しないとな。キラの礼も言わなければならないし」
「貴様は呼んでないっ!」
「そうもいかないだろう」
割って入ってきたアスランと再びバトルになりかけたその時。

「・・・あ、おはようございます。イザークさん」

数度瞬きを繰り返したキラがぺこりと頭を下げたのだった。
「あ、ぁああ?おぉはよう」
「おはよう、キラ」
ぎこちなく挨拶を返したイザークに対し、アスランは弾ける笑顔(誰だお前は!?)
「おはよう、アスラン」
にこり、とキラ(こんなキャラだったのか?キラ・ヤマト!)
「もう大丈夫そうだな、安心した」
「うん、君が居てくれたから。もう大丈夫」
アスランがはにかむキラの頬にキスを・・・(オイオイオイオイオイオイ!!)

「し、信じらんないっ!ふつー、人前でそうゆうことする!?」
「別に良いじゃないか。昔は良くしただろ」
「もう子供じゃないんだよ!?もうっ、恥ずかしいなぁ!」
(ってか、こいつら子供の頃からこんな事していたのか!?理解不能だ・・・)
キラが怒っているのを見て、心から安堵したイザークである。
そっち系ではないらしい。恐らく、きっと。

「とにかく、母上がお待ちだ。俺は下で待っているからな」
これ以上この二人に関わらない方が良さそうだと判断したイザークは、そそくさとキラの部屋を後にした。
キラを使ってアスランの弱みを握るという当初の目的をすっかり忘れているイザークである。
否、忘れたい・・・

「トリィ?」
がっくりと肩を落としたイザークの頭の上に、何時の間にやら一緒に着いてきたらしいキラの機械鳥が留まって鳴いた。



「俺たちは月のコペルニクスで兄弟のように育ったんです。な、キラ?」

にこやかに、自分とキラの仲を語るアスラン。
何故かキラを抱き寄せ、肩に手を置いている。
自分が知るアスラン・ザラはスキンシップを好む奴では無かった筈なのだが、もはや言っても詮ない事だ。

先ほどまでイザークの頭に留まっていた機械鳥は、今はキラの頭の上にいる。
イザークの頭は髪質がつるつるしていて不安定なため、機械鳥のお気に召さなかったようだ。


「そう。それで貴方はキラ君を引き取りたいと言っているのね」
アスランが居ることに初めは驚いたエザリアだったが、直ぐに状況を飲み込んだようだ。
流石は現役評議委員と言ったところか。
「はい。キラは遠慮がちな性格ですし、此所でお世話になるよりは私の家の方が、安心すると思いますから」
「でもねぇ。もう彼の難民申請は出してしまったし。それに、貴方はもうすぐ軍に戻るでしょう?パトリックはあの通り忙しい人だし、満足に彼を見てやれないのではなくて?」
「それはそうですが・・・それは此所でも同じでしょう?エザリア様もイザークだって」
思いも寄らない場面でエザリアに難色を示され、今まで余裕綽々だったアスランの表情に焦りの色が出たのをイザークは見逃さなかった。

(ふふふ・・・無様だなアスラン・・・)

「それに、私が居ない間はラクスに頼もうかと・・・」
「ラクス嬢に頼むなど、言語道断です。幾ら彼が幼馴染とは言え、ラクス嬢に年頃の少年を預けるなんて。貴方とラクス・クラインとの婚約にどんな意味が込められているのか、分かって言っているのでしょうね?」
「それは、勿論重々承知しているつもりですが・・・」

(凄い。アスランの奴が完全にやり込められているっ。流石!流石です母上。俺は惚れ直しましたっ)

少々危ない考えをしながら母親を羨望の眼差しで見つめているイザーク。
キラはおろおろと事の成り行きを見守っている。
「心配しなくとも、キラ君の事は私が責任を持って面倒を見ます。イザークも頼りないようだし・・・」

(このままどんどんアスランを追い込めていけば・・・って俺!?)

「俺がですか!?」
「そうよ」
ちらりとアスランを見れば奴はこちらを見て鼻で笑った(様に見えた)

(くっそぉぉぉ覚えていろアスラァアン!これで勝ったと思うなっ!!)

イザークが一人で(勝手に)悔しがっている間にも話は進む。
「此所は私に任せてくれないかしら?なにもキラ君の心配をするなとは言っていないし、また様子を見に来ればいいわ」
「でも・・・」
「アスラン、エザリアさんもそう言って下さっているし、僕は平気だよ」
まだ渋っているアスランに見かねたキラも口を挟んだ。

「アスランの気持ちも嬉しいけど・・・アスランの迷惑になるなんて、僕はそんなの嫌だから」
「俺は迷惑なんて思ってないっ!!」
「アスランは、でしょ?あんまり我が儘言っちゃ駄目だよ。・・・ね?」
「キラ・・・」
ここでまた二人だけの世界に入ってしまったアスランとキラ。

「話は纏まったかしら?」
エザリアはこほんと一つ咳払いをして、誰にも崩せないだろう二人の壁をあっさりと破ってみせた(伊達に以下略)



「じゃあ、キラ・・・メールするから、ちゃんと返事を返すんだぞ?」
「うん。でも、忙しいなら無理に連絡入れなくて良いからね?」
「分かってる。ちゃんとエザリア様の言うことを聞くんだぞ?一人でため込んで無茶するなよ?辛くなったらすぐ連絡入れるんだぞ?」
「分かってるよ。もう、アスランってば心配し過ぎ!」

戦地へ赴くために別れを惜しんでいる恋人達――・・・の様に見えるがそうではない。
ただ単にアスランが用事で実家に帰る事になっただけだ。
用事が終わり次第また此所に来るつもりらしい。
塩を持って待機中のイザーク。
悲しいことに、若輩のイザークにはこの二人の作り出す世界に踏み込むだけの技量が無いのだった。



後ろ髪を引かれすぎる程引かれるようにして、そりゃもう名残惜しげにアスランが去り、ジュール家に再び平穏が戻った。

「どうした?アスランが居なくなって寂しいか」
塩を撒いていたイザークは、ぼんやりと空――と言っても作り物だが。
を眺めているキラに話しかけた。
キラはふるふると首を振る。
「寂しいというか、まだ信じられなくて。アスランにまた、会えるなんて・・・」
嬉しいです。とはにかんで笑う。
イザークにしてみればアスランの何処が良いのかさっぱり理解出来ないのだが、人の好みは千差万別だと言うことなのだろう。
「ま、アスランのあの様子だと明日にでも来そうな勢いだったからな。寂しいと思う間もなくまた来るだろ」
別に来なくていいがな。
言うと、キラが耐えきれないといった様子で笑った。
「なんだ」
やや憮然とすると、「だって、ごめんなさい」とまだ笑う。
「イザークさん、アスランと仲良いんですね」
「はぁ!?」
思いっきり顔を顰める。
何処をどう見てそんな発想になるのだろう。
「ふふ。さっきアスランに同じ事言ったんです。イザークさん、アスランと同じ反応するから」
クスクスと笑い続けるキラ。
アスランと同じ反応なんて釈然としないが、まぁこいつが笑っているから良しとしておこう。


肩に留まるトリィを撫でながら、キラが呟いた。
「・・・でも、直にアスランもイザークさんも戦場に戻るんですよね」
「まぁ、軍人だからな」
「そしたら、少しだけ・・・寂しい、かな」
心配だし・・・と俯く。
テロで両親を失ったキラにとって、戦争は嫌なものに違いない。
「心配するな。俺もアスランも強いからな」
がしがしとキラの頭をかき回してやると、漸く笑ってくれた。


残りわずかになった塩を巻き終えて、イザークは踵を返す。
去り際、まだ空を見つめているキラに言葉を掛けた。
「お前みたいな目に遭う奴がこれ以上出ないようにするために、俺たちは戦っているんだ」
「・・・はい」
ちらりと振り返るとキラは今にも泣き出しそうな・・・そんな表情をしていた。
それからゆっくりと、イザークに向かい深々と頭を下げる。

アスランが絡まなければ、キラ・ヤマトはとても好ましい人物だと思う。

「心配するな。アスランのあの様子なら、何が何でも戦争を終わらせてお前の所に帰ってくるだろうよ」
本来なら【本国で待つ婚約者のために】だろうが、あえて目を瞑る事にする。
あのアスランのキラへの執着が【幼馴染みで親友】の域を越えているのも目を瞑ってやろうではないか。
ああ、俺はなんて心が広い出来た人間なのだろう。


「トリィ!」

キラの元を飛び立っ機械鳥が、気持ちよさそうに空を飛んだ。


written by 駝鳥の一人旅:若桜有実様

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UpData 2006/09/04
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