贔屓サイト様による「一万ヒット感謝の気持ち」のFREE小説。
作者様からのコメントは----このお話は「もしも戦争が起きていなかったら」といういわゆるIF物。
キラちゃんが男の子でも女の子でもお好きなように解釈していただけるようにと、あえてキラちゃんに対する「彼」「彼女」という表現は省きました。
なので皆さんがお好きなほうで想像して読んでみて下さいね。




■□■□■□■□■
IF〜もしもの物語〜
■□■□■□■□■

「アスラーンっ、こっち、こっち!!」

聞き慣れた声を耳にして、アスランは人混みの中を縫うように声の主の元へと急いだ。途切れる事のない人波の合間からはぴょんぴょんと跳ねる茶色の頭と、自分の居場所を知らせるために勢いよく振り回される手が覗いている。

(――― だから家まで迎えに行くって言ったのに・・・)

周りを歩く人波に今にも押し潰されそうになっている幼馴染の姿を見て、アスランは内心で溜息を吐いた。だがどんなに迎えに行くと言っても、キラは「外で待ち合わせよう」の一点張りで。
しかしキラから教えてもらった待ち合わせ場所はいわゆる「待ち合わせのメッカ」といわれる所で、アスランは苦労して人混みを掻き分けると何とかキラの元へと辿り着く。

「はぁ・・・やっと着いた」
「三分の遅刻!珍しいね、アスランが遅刻するの」

疲れたように息を吐くアスランの姿を見て、キラは時計を指し示しながら彼に言う。それを聞いたアスランは僅かに眉を顰めた。

「ちゃんと時間前に着いてたさ。キラを見つけるのに手間取っただけだよ」
「でも、遅刻は遅刻。僕はちゃーんと時間どうりに待ち合わせ場所にいたんだからね」

得意げに言いながらアスランの乱れた髪を直してやると、諦めたような溜息が聞こえてきた。

「分かった。今日は全部俺のおごり。さ、行こう。こんな場所じゃ落ち着いて話も出来ない」

アスランは自分の髪を梳いているキラの手を取るとその場を移動し始めた。いっこうに減る気配のない人波からキラを守るように、なるべく空いている場所を選んで進んでいく。しばらく歩き続けるとようやく人が減りはじめ視界が開けた。

「・・・ぷはっ。すごい人だったね。どこからあんなに集まってくるんだろう」
「そのすごい人がいる所を待ち合わせ場所にしたのはキラだろう?・・・お前、ちっちゃいから見つけるのが大変だ」

くすりと笑いながら視線を送ってくるアスランの姿に、キラの心臓がドキッと跳ねた。
最近の彼は良くこういう表情をする。普段は大人びていてどこか取っ付き難い感のあるこの幼馴染が、最近妙に色っぽくなってきたように思う。女みたい、というのとは違う。体つきは確実に男として成長している。今キラの腕を掴む手だって小さい頃の彼からは想像もつかないほど逞しく、しっかりとした男の手だ。ただ時折彼が見せる仕草や表情が何とも言えず艶っぽい。

(――― だって・・・ほら。みんな振り返ってくし)

道行く人達は皆すれ違いざまに彼を盗み見ている。男も女も関係なく自然と視線が集まってくるのだ。
そんな彼を誇りに思いつつ、何となく負けているような気がするキラだった。

「キラ?どうした?」
「ん?ううん、何でも・・・。ね、どこ行こっか?」
「何だ、決めてなかったのか?今日はキラの行きたい所に行くんじゃなかったのか?」
「うん。でも行きたい場所ありすぎて訳わかんなくなっちゃった」
「まったく。・・・じゃあ・・・桜並木に行こうか?」
「うん!!」



桜並木は二人にとって思い出深い場所だ。出会ったのもあの場所なら、互いに「好き」と伝え合ったのもあの場所だ。
もし戦争が起こっていたのなら、悲しい別れの場所にもなっていたかもしれない。

「戦争にならなくて本当に良かった・・・」

舞い散る桜の花びらを掌で受け止めながら、キラは小さく呟いた。
長い間続いていた地球とプラントの不穏な関係も一応の終結を見せた。全てが上手くいっているわけではないが、一触即発の雰囲気を見せていた頃に比べれば落ち着きを取り戻しつつある。

「あぁ、本当に・・・良かった」

同じように花びらを受け止めながら、アスランも呟く。
両者の緊迫した状態が続いていた時期、アスランは父親からプラントに来るように言われた事があった。それはキラと離れ離れになるという事で、まだ幼かった彼は偶然でも奇跡でもいい、戦争なんて起きなければとただひたすら神に祈った。あの後、休戦協定が結ばれたのはまさに奇跡と言っていいだろう。



舞い散る桜の花びらを全身に受けながら、二人はしばらく無言でいた。だがその沈黙をアスランが破った。

「昨日・・・」
「ん?」

視線を足下に落としたまま、アスランはどこか言い難そうに言葉を繋ぐ。

「昨日、父から連絡があった」
「・・・うん」

その言葉に彼がこれから言うであろう事を察して、キラの声が僅かに震えた。同じように震えてしまった指先は、彼に気付かれる事がないようにとそっと握り締めた。

「・・・プラントに来いって言われたよ。もうテロの心配もないから、戻って仕事を手伝えと」
「いつ・・・行くの?」

キラは泣きたい気持ちを抑えて何とか聞き返す。
あと、どれくらい彼と一緒にいられるのだろう。
一ヶ月?十日?それとも・・・・。

「三日後」
「・・・そう・・・、っ」

堪えきれず、涙が溢れた。
こんなに急に別れの時が来るなんて。
いや、薄々は勘付いていたのだ。
昨日の夜、待ち合わせの場所を伝えるために通信をした時、アスランの様子が少しおかしかった。
きっと父親から連絡を受けた直後だったのかもしれない。

「ふ・・・っ、・・・っく」
「キラ・・・泣かないでくれ」

声を押し殺して泣くキラの体をアスランは優しく抱きしめた。
宥めるように髪を梳いてやると、持っていた荷物から何かを取り出す。

『トリィ』

場に不釣り合いな鳴き声が聞こえて顔を上げると、そこには緑色のロボット鳥が。
アスランの掌の上で小さく首を傾げてこちらを見るその鳥を、キラ不思議そうに眺めた。

「・・・何?」
「トリィっていうんだ。・・・首傾げて鳴いて、肩に乗って・・・飛ぶよ?」
『トリィ』

それはいつだったか、マイクロユニットの課題が出された時にキラが作ってみたいと言っていたそのままの姿。

「キラ、いつか言っていただろう?こういうの欲しいって。だから・・・」

キラのために作っていたのだ、と言いながらキラの前にトリィを差し出す。
つられる様にして思わず出した手の上に、トリィがぴょこんと飛び移る。

『トリィ』
「・・・・・・」

涙に濡れた瞳で見つめていると、トリィは首を傾げて何度も鳴いた。
確かに自分は欲しいと言っていた。だが。

「・・・いらない」
「え?」

トリィを乗せたままの掌を勢いよくアスランに向けて突き出した。
その動きに驚いたトリィが掌から飛び立つ。

「キラ?」
「いらない!!こんな・・・思い出作りみたいなのは嫌だっ。僕、もう帰る!!」
「キラ!!」

そのまま走り出したキラの後をアスランが慌てて追いかける。

「キラ!!待ってくれ!!」
「っ、離してよ!!」

すぐに追い着いてその腕を掴むと、キラはむきになって振り解こうとする。

「キラッ!!どうしたんだ、一体・・・」
「・・・こんな・・・こんなふうに思い出ばかり残してくなら行かないでよ!!あんなの・・・いらないっ・・・アスランがいてくれたら、それで・・・っ、アスランがいてくれれば、それでいいのに!!」

顔を涙でぐしゃぐしゃにしたキラは、「この鈍感男!朴念仁!ヘタレ!」と思いつく限りの言葉を並べ立てながらぼかすかとアスランを叩く。
その内の数発は確実にアスランにヒットして、痛みに顔を歪めながらそれでも何とかキラを抱き込む事に成功する。

「キラ、分かった。悪かったから・・・落ち着け・・・って、痛っ!!」
「馬鹿馬鹿っ!!アスランの馬鹿――― っ!!」
「キラ・・・ッ、いい加減に―――」
「馬鹿馬鹿―――、・・・――― んっ」

果てしなく続くと思われた罵声は唇を塞がれた事によって収まった。
いつもより長い口付けに、息苦しくなったキラがアスランの服を引っ張る。
すると、それまでのしつこさが嘘のようにあっさりと解放され、替わりにきつく抱きしめられた。

「・・・ごめん、キラの気持ちも考えないで・・・悪かった。・・・でもね、キラ。人の話しは最後まで聞くのもだよ?」
「え・・・?」

キラはキスの余韻でぼんやりとする頭のまま、アスランの言葉に耳を傾ける。

「俺はお前にさよならをするために此処にいるわけじゃないんだぞ?」
「え・・・でも、・・・でもっ、アスラン、プラントに行っちゃうんでしょう!?だから・・・っ」
「だから、キラに会いに来たんだ。・・・一緒に行こう」
「え?」
「一緒に行こう、プラントへ。一緒に・・・来てくれ・・・」

弱々しい声で、懇願とも取れる響きで。
それはキラがはじめて聞くアスランの願い。
いつだって勝手なお願いを口にするのは自分のはずだったのに。

「アスラン・・・?」
「キラと離れるなんて考えられない・・・。一緒にプラントに行って・・・一緒に、暮らそう」

キラは頭がパニックになった。
いつもしっかりしていて弱音など吐く事のないアスランが、まるで幼い子供のように自分に縋ってくるなんて。
それに、それに・・・。

「あの・・・アスラン?」
「・・・何?」
「あの・・・えっと、それってもしかして・・・プロポーズ?」

おどけた口調で訊ねると、アスランは少しだけ顔を上げて。

「・・・かもしれない」
「何だよ・・・『かも』って・・・」

曖昧な言い方が気に入らず、キラは唇を尖らせる。
すると間近にある翡翠の瞳がくすりと笑った。

「分かった。じゃあ・・・キラ、俺と一緒にプラントに来てくれ」

再度告げられた言葉にキラが答えようとしたその時。

『トリィ!』
「「・・・・・・・・・」」

タイミング良く二人の間に飛び込んできたトリィが元気良く鳴いた。
小首を傾げながら鳴き続けるその姿に、どちらからともなく笑い出す。

「あははっ、トリィも一緒に行きたいって!!」
「ああ・・・仕方ない、連れて行ってやるか。さあ、キラ。帰ろう」
「え?もう?」

自分の手を取って歩き出したアスランに、キラは「まだ早い」と文句を言う。

「帰って準備をしなくちゃならないだろ?出発は三日後なんだぞ」
「えぇ!?本当に三日後に行くの?」
「当たり前だろ。ほら、駆け足っ」
「うわっ」

手を引かれるまま一緒になって走り出す。
そんな二人の後を緑の鳥が追い駆けていく。
雨のように降り注ぐ桜の花びらだけが知っている、「もしも」の二人の物語。




もしも、戦争が起こらなかったら。
もしも、離れ離れになっていなかったら。
もしも、二人手を繋いで笑い合えていたら。

そんな「もしも」の物語。

written by モノクロの世界:秋津るの様

文字でキラらぶTOPへ
TOPへ戻る


UpDate 2005/06/20
by(c)RakkoSEED