贔屓サイト様による「四万ヒット感謝の気持ち」のFREE小説。
アスランとキラちゃんは同居(同棲)中で、戦後パラレル設定。
戦いの爪痕は残っているけど、二人のほのぼのとした日常の一コマ。




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続いていく未来
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「―――・・・うっわぁ・・っ、ちゃんと押さえててよっ、アスラン!」
「押さえてるだろう!?・・・って、痛っ!キラこそちゃんと前見て!」


麗らかな午後の昼下がり。
とある海沿いの小さな家の前。

どこまでも続く青い海と空の下、賑やかな声が聞こえてくる。



「ぅわっ、わ、わ、・・・・っと、もう少しで・・・・」
「しっかり漕げよ・・・手、離すぞ」
「あー!ちょっと待ってって・・・――― うわぁっ!」
「キラ!」

ガシャンッと派手な音がしてキラは自転車ごと見事に転んだ。
立ち上がる砂埃にむせながらアスランを睨む。

「いきなり離すなんてヒドイよ!」
「キーラー・・・もういい加減諦めないか?だいたい必要ないじゃないか、自転車なんて」 「必要ある!せっかく直したのに乗らないなんて勿体ないじゃないか」

キラは立ち上がると倒れた自転車を起こして再び跨った。

「今度はしっかり押さえててよね」
「・・・はいはい」



少し古ぼけたオレンジ色の自転車は、ふらりと立ち寄ったフリーマーケットでみつけてきたもの。
アスランは「そんなガラクタはいらない」と主張したが、キラはすっかり気に入ってしまったようで結局お買い上げとなった。
真夏の炎天下、海沿いの道を二人がかりで汗だくになって持ち帰ったのはつい十日前のこと。
その後、足りない部品を何とか入手して使えるまでに直したのが三日前。
ようやく乗れる状態になった今やレトロな人力二輪車を目の前に、「あとは乗る練習だけだね」とキラが言い出したのはその直後だった。


――― あの時から嫌な予感はしてたんだ・・・。
アスランはもう何度目かも分からない溜息を吐く。
「乗る」と言い出したもののキラはなかなか乗りこなす事が出来なくて、アスランをも巻き込んだ練習は三日目の今日も続いていた。

「だいたい車があるんだからわざわざこんな物使わなくたっていいだろうに」

ブツブツと文句をいいながらも荷台を押さえる。
キラの乗った自転車は相変わらずふらふらと頼りなく揺れていて、手を離そうものならすぐに倒れてしまう。そのせいでキラの手足にはいくつも擦り傷が出来ていた。
それでもやめようとしないあたり、相変わらず頑固と言うか何と言うか。
本当ならそろそろ夕食の材料を買い出しに行きたいところだが、こうなったらとことん付き合ってやろうじゃないかとアスランは半ばヤケになっていた。
「もう諦めろ」と言いはしたが、本気でやめさせようと思っているわけでもない。
キラが自分から何かをやりたいと言い出すのはとても珍しいことだったから。



戦争が終わってから二年。
二人が一緒に暮らすようになってからはまだ一年も経っていない。
それまでは戦後処理などで忙しく飛び回る日々が続き、辛い過去を振り返る余裕すらなかった。
だがそれすらも終わると、キラはまるで電池が切れたかのように、何をするでもなくただ毎日海を見て過ごすようになった。

キラはアスランのように軍人としての訓練を受けていたわけではない。
正規の軍人でさえ戦後の生活に馴染めずに苦しむものは多いのだ。
突然あのように過酷な状況へと引き込まれてしまったキラが何の影響も受けないわけがない。
そんなキラが突然「やりたい」と言い出したのが「自転車に乗る」こと。
何故そんな事にこだわるのかは分からないが、なんであれキラがやる気を起こした事実はありがたい。
だから文句を言いながらも持って帰るのを手伝ったし、それこそ修理はほとんどアスランがやったようなものだ。
十八にもなってまだ甘やかし癖が抜けない自分に少々呆れもしたが、それはそれ、これはこれ。



「アスラン。合図したら手、離して」
「ああ」

過去も、そして未来すらも見えていない虚ろな瞳でいられるよりは、あれこれ我が儘を言ってくれるほうが余程いい。

「――― いいよっ、離して!」
「いくぞ」

掛け声とともに手を離すと、オレンジ色の自転車は海沿いの道ををゆっくりと進んで行く。
ふらふらと、頼りなく揺れながら。
それでも何とか十メートルほど先へと進み、道の端っこまで辿り着くとキラはアスランを振り返る。

「ほら!今日中に乗れるようになりそうだよ」

得意げな表情は子供の頃と変わらない。
自転車を押して戻ろうとするキラに、

「どうせならそのまま乗って戻ってきたらどうだ?」

それともまだ一人じゃ乗れそうにない?
そんな挑発めいた言葉を掛ければキラは俄然やる気になって。
自転車を方向転換させると真っ直ぐにアスランと向き合う。

「そこ動かないでよ、アスラン。・・・いくよ!」

それっ、という掛け声と同時にキラは勢いよく地面を蹴った。
キラの乗った自転車は先程までの危うさが嘘のように一本道を走り出す。

「おい、どこまで行くんだ・・・キラ!?」

自分を追い越し、尚もスピードを上げながら走り去る自転車に驚いて叫ぶと、キラはブレーキをガチャガチャと握りしめ。

「止ーまーらーなーいーっ!助けて!アスラ〜ンッ!」
「あぁ、もう・・・何やってるんだよっ!キラは!」

情けない声を残して次第に遠ざかるキラをアスランは慌てて追い駆けはじめた。



そんな風に二人が大騒ぎをする道の向こうには、戦争の爪痕を見せ付けるかのような朽ちかけた戦艦の残骸が。
あれからまだ、二年。
全てが終わったわけではなく、まだ課題も多い。
世界のあちこちではいまだに小競り合いが続いていて、広がってしまった戦争の火を消すことの難しさをまざまざと思い知らされる。
それでも。

「・・・何やってるんだ、アイツら」
「あらあら。二人ともずいぶんと楽しそうですわね」
『ミトメタクナーイ!』
「おーい!キラー!」
「あ、カガリにラクス。いらっしゃ〜い!」
「キラ!前見ろ、前!」

こんな些細な日常を壊そうとするほど人間も馬鹿ではない、と。
そう信じたい。



オレンジ色の自転車がゆるい坂道を走り抜けていく。
目の前に広がる海原に向かって。
その先に続く未来へと向かって。



written by モノクロの世界:秋津るの様

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UpData 2005/06/23
by(c)RakkoSEED