キラ・ヤマト4歳。
暮らしている環境を除けばごく普通の4歳児である。
暮らしている環境は普通ではない。
ザフト軍クルーゼ隊の旗艦ヴェサリウス。
そこで毎日を送っている。
キラがそこで生活するようになったのはキラの保護者兼世話役であるイザーク・ジュールがクルーゼ隊の配属になったからである。
それ以上もそれ以下の理由も無い。
ただイザークに付いてきた、それだけである。
普通ならば戦艦は子供の居る場所ではない。
キラがヴェサリウスに乗艦することを最高評議会も承認している。
そこまで大人達がキラに甘いのはキラを誰しもが目に入れても痛くないと思う程に可愛がっているからである……。
「いじゃーくおにぃたん」
イザークの腕の中に抱き上げられていたキラがふいにイザークを呼ぶ。
「どうした?」
イザークが優しくキラの髪を梳きながら聞き返すとキラは目を輝かせてイザークに問う。
「うみってなぁに?」
何処でそんな事を聞いてきたのかと思いながらイザークはキラと海に行ったことが無いか考えてみる。
暫く考えて、キラは海に行ったことが無いことに気付いた。
「……お前は行ったことが無いな」
「キラうみしゃんみたい!」
ぷくっと頬を膨らませて拗ねる表情を作るキラ。
イザークはそんなキラの頬をゆるく撫でると一つの提案をした。
「次の休暇は地球に下りるか」
「うん!」
キラは意気揚々と頷いた。イザークはそんなキラの様子を見て微笑んでいた。
そして休暇の日。
イザークとキラはシャトルで地球に下りた。
キラは終始興奮していた。
キラのこの日の服は上着はセーラー服で下は紺色の半パンである。
地球に着くと二人はあらかじめ予約していたホテルへと向かう。
空港からホテルへエレカで向かう途中の道は海岸沿いだった。
夏の日差しに照らされて水面がきらめいている。
「おにぃたん、これがうみ?」
興奮したキラがイザークに問う。
「そうだ」
「きれぇなのっ!」
エレカの窓に頬を押し付けてキラは海を見た。
初めて見る物に対して興奮が抑えられないキラをイザークは優しく見守っていた。
ホテルに着くとチェックインして部屋に向かう。
「キラはやくうみいきたい!」
「少し待て」
ごねるキラを宥めながらイザークとキラは部屋に行った。
部屋に着くとイザークはキラの水着をトランクから取り出した。
「さあ、着替えだ」
「おきがえ?」
イザークの言葉にキラが首を傾げる。
「海に行くなら水着が要るからな」
「ふぅ〜ん」
不思議そうにしながらもキラはズボンとパンツを脱いで水着を着た。
その上からまたスボンをはく。
上着は着てきたセーラー服を脱がされてTシャツに着替えさせられる。
キラはまだ着替えが上手く出来ないのでいつもイザークが手伝ってやるのである。
キラの着替えが済むとイザークも水着に着替えて上から半パンをはいてTシャツを着る。
着替えが済むとイザークは日焼け止めを取り出した。
「キラ。今から日焼け止めを塗るからな」
「ひやけどめ?」
「日に焼けないようにする物だ」
説明しながらイザークはキラの顔や腕に丁寧に日焼け止めを塗っていき、キラに塗り終えると自らも塗っていった。
塗り終えてようやく準備完了である。
「よし、行くか」
「わぁい!」
こうして二人はビーチへと向かった。
「何故お前達までいる……」
ビーチに着いた途端に出たイザークの一言。
無理も無い。
何処から聞きつけてきたのか、アスラン・ミゲル・ニコル・ディアッカ・ラスティが居たのだから。
キラは特に疑問に思っていないようである。
「そりゃあキラの行く所ならばどこまでも!」
アスランの言葉。イザークは呆れるしかない。
「俺は単に海に来たかったんだ」
アスランを横目に見ながら言ったミゲルの言葉。
「僕もです」
「俺も」
「俺も〜」
ミゲルに賛同するニコル・ディアッカ・ラスティの言葉。
「遊ぶなら大人数の方が楽しいだろ?」
このミゲルの一言で全員で遊ぶことになった。
「しかし、遊ぶって何をするんだ?」
「それはこっちで準備済み」
疑問を口にするイザークにアスランが瞬時に答える。
そしてアスランが持ってきたのであろう大きなカバンから出て来た物は。スイカ。
「スイカ割りしようぜ!」
ミゲルは何処からか出てきた棒切れを持って声高に宣言した。
「キラもしたいだろ?スイカ割り」
「すいかわりってなぁに?」
小首を傾げてキラが問う。
「目隠ししてスイカを割るんだ」
ミゲルのその言葉でキラの関心は一気に高まる。
「やりたい!」
未知の遊びにキラの好奇心は高まるばかりである。
「じゃあキラ、目隠ししよう」
そう言ってミゲルがキラに目隠しをしてやった。
「なんにもみえないよぅ!」
「それでスイカを割るんだぞ」
キラにやり方を説明すると皆でスイカとキラを囲むように立ってキラにアドバイスを送る。
「もっと右!」
「もうちょっと左!」
そんな声に導かれて棒の先がコツン、とスイカに当たった。
しかしキラの力では割れるはずも無く。
「惜しいー!」
そんな声がいくつもかかる。
何度当たっても割れないのでしまいにはキラは目隠しを取って泣き出してしまった。
「おにぃたん〜」
泣き出したキラを抱き上げてイザークはあやす。
暫くそうそうしているとキラは落ち着いた。
「じゃあキラ、今度は見る方になったらどうだ?」
ディアッカの提言にキラは頷いた。
六人でじゃんけんをして、やる順番を決める。
一番はイザークだった。
イザークはミゲルに目隠しをされると薄く笑っていた。
そして。
「ぎゃあ!」
イザークは棒切れを持つとアスランめがけて振り下ろした。
アスランはそれをギリギリで避ける、日頃キラにロクな事をしないアスランはキラの保護者であるイザークからよく思われていないのである。
「卑怯だ!」
「俺は目が見えていないんだぞ?」
アスランの叫びにもイザークは口元に殊勝な笑みを浮かべて応える。
「おにぃたんとあしゅらんばっかりあそんでてずるい」
「キラ……遊んでないよ」
無邪気なキラの言葉も今のアスランにとっては癒される対象にはならない。
この終わりのなさそうなイザークとアスランの攻防は周りが止めたことで収まった。
そして次にスイカ割りをするのはミゲル。
自分で目隠しを付けると一発でスイカを割った。
「われたぁ〜」
スイカを割り終えると皆で割れたスイカを食べた。
その後キラは波打ち際で波と戯れて遊んだり、貝殻を集めたりして遊んだ。
その間イザークはキラにずっとついてやっていた。
途中でキラは遊び疲れて眠った。
この小旅行はキラにとって忘れられない思い出となった。
written by mangels:澪様