旧ザフボ+キラちゃんinザフトによる、アスラン誕生日話。
クルーゼ隊で有名なキラの誕生日プレゼントとは…?
アスラン哀れ…イザーク、タナボタ。
果してキラが間違いに気付く日は来るのだろうか…いや、気付くだろ、普通…!という疑問はさておき。
まぁ、擦れてるキラという事で(笑)
この話、キラが女の子だとしても通じます。むしろその方がオイシイ。



 
■□■□■□■□■
プレゼント
■□■□■□■□■

「アスラン、誕生日おめでとう。はい、これプレゼント。」


慌ただしく人の行き交う格納庫。
整備士達が外装の修理をしてくれている最中、コクピットに収まってOSのチェックをしていたアスランは、突然降って来たその声に、顔を上げた。
そこには、無重力の中を漂い、覗き込むようにしているキラの姿がある。
キラは、ニッコリと笑うと、アスランの方へ一枚の紙切れを差し出してきた。

「何だ、これ?」

「だから、プレゼント。アスラン、今日誕生日でしょ?」

ただでさえ記念日というものに無頓着だったアスランは、キラの言葉でようやく「ああ、」と声を漏らす。
そういえば、そんな頃かも知れないな、とぼんやりと考えた。
それにしても、よくもまぁ自分すらも覚えていない誕生日を、この幼馴染みは覚えてくれていたものだ。
アスランは少し感心しながらも、この戦時中に自分が生まれた日を素直に喜ぶ気にもなれなくて。
曖昧に笑ってキラからの『プレゼント』を受け取った。
キラがニコニコと差し出してきた紙切れ。
そこには


『肩叩き券』


と、見間違えようもなく、赤字でデカデカと書かれていた。


一瞬、アスランは言葉につまる。
何かの冗談かと思い、キラの顔を見上げてみるも、キラはいたって本気のようで。
"さぁ喜べ"といわんばかりの満面の笑みを浮かべてこちらを見ていた。


「……キラ?」

「ん?」

「肩、叩いてくれるのか?」

「うん。そう書いてあるでしょ。今やって欲しい?」

「……いや。」


『肩叩き券』といえば。
子供が母の日や父の日に贈る、プレゼントの定番だ。
金銭的にも乏しく、かつ時間もないという時、困りに困った末に作り出す、即席プレゼント。
誕生日を祝ってくれる気持ちは嬉しいが、これはいくら何でも…と、アスランは思った。
自分はまだ17才。
軍務のせいで疲れることはあるが、まだ肩が凝るほどの年でもない。
キラにとって、自分は両親と同等の存在なのだろうか…。
アスランは、それを思うと複雑な気持ちになった。


それが自然に、溜息という形になって表に出てしまう。
キラは、アスランが酷くガッカリしたのだと思い、少しムッとなった。


「だって、こんな時にプレゼントなんて用意できないし。イザークの時も、クルーゼ隊長の時も、それで喜んでくれたよ?」

「………。」


あのイザークが?『肩叩き券』を喜んだ…?
ちょっとどころではない意外な発言に、アスランは眉根を寄せる。
クルーゼ隊長なら、仕方ないのかもしれない。
隊長という役柄的に、何かと気苦労もデスクワークも多いだろう。
しかし問題はイザークだ。
気位の高いイザークが、誕生日に『肩叩き券』をもらって、本当に喜んだのだろうか…?
馬鹿にされたと思って怒り出しそうな気もするが……。

アスランの脳裏に、キラに肩を叩かれて満足気に笑うイザークの姿が浮かんだ。


……ありえない……。


一度はそう思ってかぶりを振ったアスランだったが、ふと普段のイザークを思い返し、考えを改めた。
短気で癇癪持ちのイザークなら、案外変なところで肩が凝るものなのかもしれない。
一人そう納得していると、キラがまだ頬を膨らませたままアスランを見ている事に気がついた。

「ああ、ごめん。プレゼントなんて、気にしなくてもいいのに。キラが誕生日を覚えていてくれただけで、俺は充分だよ。」

アスランは、にっこりとそう言うと、手にしていた『肩叩き券』をやんわりとキラの方へ返す。


「…いらないの?」

「またイザークにあげればいいよ。確か徹夜明けだったろうから、きっと疲れてるよ。」

「…そう…。」


飛んで来たそれを受け取って、キラはガッカリしたように呟いた。
少し悪い事をしたかな…と胸が痛んだが、自分がやってもらったところで逆に肩が痛くなるだけだろうし、イザークに譲るにしても、彼なら自分の手からは絶対受け取らないだろう。
また無重力の中を漂うキラの背を見送りながら、アスランは少しあたたかい気持ちになった。
人をたくさん殺めてきた自分だけれど、こうして生まれてきた事を祝ってくれる者がいる。
それがとても幸せな事に思えて、笑みがこぼれる。


しかしこの後アスランは、本当の幸せを逃してしまった事に気付き、深く深く後悔する事になるのだった。




「イザーク、あの…。」

「……キラ?」


遠慮がちにかけられた声に、その主を悟り、イザークはできるだけ柔らかく応えた。
本当は、徹夜明けで肉体も精神もくたくた。
誰にも話しかけて欲しくないし、かまってなど欲しくない所だ。
しかし、聞こえてきたキラの声が、あまりにも弱々しいので、自然にそうなってしまった。
疲れた顔など見せまいと、表情を引き締めたイザークは、背後にいたキラを振り返る。
そして、その様子に驚いた。
廊下の真ん中で、頼り無く立つキラは、目にも見えて元気がなく、表情もパッとしない。
それを認めた途端、疲れなど忘れたようにキラに駆け寄っていた。


「どうした?体調でも悪いのか?」

「…ううん。そうじゃなくて…アスランが、これいらないって言うから…。」


そう言ってスッと差し出されたキラの手には、1枚の紙切れがあった。
よく見ると、そこには『肩叩き券』とデカデカと書かれている。


「これ…は…。」


イザークは息をつめた。
これは、忘れるはずもない、"至福のチケット"。
心の中で密かにそう名付けていたソレを目にして、イザークは手がわなわなと震え出すのを感じた。


「これを…アスランに?」

「うん。アスラン、今日誕生日だから…でも、いらないって返されちゃった。」

「いらない……だと?」


一瞬アスランに対して沸き上がった怒りは、すぐに疑念へと変わる。

アスランが?
キラからのプレンゼントを、自ら放棄した…?
しかも、この"悦楽へのパスポート"を……??

信じられないと言うように、回らない頭で必死に考えていたイザークは、次のキラの言葉で更に驚愕にうち震えた。


「で、イザークにあげればいいって。」

「……俺、に……!!?」


驚きのあまり、声が掠れた。
イザークはキラの手に握られている紙切れをまじまじと見て、一歩、後ずさった。


8月8日。そう、忘れもしない、自分の18才の誕生日。
キラからこの『肩叩き券』を初めてもらった時の事を思い出す。
あの時、この券を差し出してきたキラに、自分は思わず怒鳴りつけた。
あの頃は、キラという人間をよく知らなかったし、「アスランの幼馴染み」というイメージが強烈でまだ嫌煙していた時で。
そんな人間からいきなり誕生日プレゼント…しかも、年寄りじゃあるまいし『肩叩き券』など、誰が喜ぶか…!と、憤慨したけれど。
「隊長は喜んでくれた」というキラの一言を聞いて、興味半分で肩を差し出したのを覚えている。
「下手くそだったら殺すからな。」としっかり脅して。


しかし。実際は……天国、だった。
もう、死んでもいい…と、おもえるほどの天国が、そこにはあった。
思わず、あとで他の連中に触れ回ったくらいだ。


そこまで考えて、はた、と我に返る。
そうか、アスランは知らないのだ。この券の、重要性を。
確か、自分が食堂でこの話をした時、アスランはその場にいなかったような……。

イザークは知らず、ニヤリ…と笑みを零した。
馬鹿なやつだ…。
そう、思いながら。


「そうか。では仕方がないな。俺が有り難くもらっておこう。」


キラの手ごと、その券を握りしめて、イザークはさっき零した暗い笑みとはうってかわって、優しい微笑みを浮かべた。
それに機嫌を直したのか、キラの顔もパッと明るいものとなる。


「あ〜良かった!アスランがいらないって言ったから、イザークも嫌なんじゃないかと思って心配したよ!」

「そんなわけあるか。キラがくれるものなら何でも受けてやるさ。」

「それじゃイザーク、今使う?」

「当然だ。」

イザークは、はしゃぐキラの肩を抱いて、満足気に自室へと向かった。




その頃アスランは。

ガッカリとしたキラの顔を思い起し、プレゼントを受け取らなかった事に、少し後悔しはじめていた。
形だけでも、あれを受け取っておくべきだったのではないだろうか…と。
キラの事だから、自分もクルーゼやイザークのように、喜んで受け取るものだと思い込んでいたに違いない。
そう考えると、キラの期待に反して、そっけない態度をとってしまったのではないかと、不安になった。
プレゼントとは、どんなものであれ、受け取ってもらってこそ、なのだから。

OSのチェックで手と目を忙しく動かしながら、アスランは頭の隅で、延々とその事を考えていた。
キラに、後で謝ろう。
そして、もう一度お礼を。
そう心に決めて、手早く仕事を済ませてしまおうと息巻く。
しかしその時、奇妙な音楽がコクピット内に響き渡った。


ピ〜リリ〜リ〜リ〜リ〜〜〜〜ピ〜リリ〜リ〜リ〜リ〜〜〜〜♪


それと共に、ディスプレイに映し出されるファンシーなくまさん。
いかにも子供が喜びそうな、かわいらしいその姿に、アスランは癒されるどころか逆に、眉を顰めた。
そのくまが首を傾げて、花束を差し出してくる。
そして、その上に浮かび上がる『HAPPY
BIRTHDAY』の文字。
あまりに突然の子供っぽいその画像に、アスランの顔はすっかりひきつってしまった。

『アスラ〜ン!お誕生日、おめでとうございます〜!』

底抜けに明るい声が、通信を介してかけられ、そこでようやく現実へと返った。


「…ニコル…?」


ディスプレイいっぱいに映ったくまを壁紙に、ニコルの顔が現れる。
その表情は、もうめいいっぱい上機嫌で。
その様子は先程のキラと変わりなく"さぁ喜べ"と言わんばかりであった。


「お前…仕事中だぞ。何かを送信するなら、最初にそう言ってくれ。」


ニコルの事だから、どうせキラにでも自分の誕生日を聞いたのだろう。
ニコルもキラも、こういう子供っぽさに手を煩わされるんだ…などと思いつつ、アスランは礼を述べる事も忘れて、そんなつまらない事を言ってしまった。

『ほーら、言わんこっちゃない。頭でっかちのアスランには、こういう事したって無駄だって。』

すぐに言い直そうとするも、今度はディアッカが茶々を入れてきた為、タイミングを失う。
意図せず吐き出された溜息は、これまたキラの時と同じく、ニコルをガッカリさせてしまうのだった。


『そういやアスラン。キラからプレゼントはもらったのかよ?』

「…え?」

『あ、僕も実は、それが聞きたかったんですよ!』


突然ふられたキラの話に、アスランは思わずドキリとする。
そのプレゼントを、自分は受け取る事なく返してしまったのだから。


「…あ、ああ…さっき…。」

『やっぱ、"肩叩き券"だったか!?』
『やっぱり、"肩叩き券"でしたか!?』


自分の言葉を最後まで待つ事なく聞き返してきた2人に、言葉がつまった。
どうやら、キラの"肩叩き券"は有名らしい。
しかし…と、アスランは思う。
皆、そんなに肩が凝っているのだろうか。


"肩叩き券"を口にしたディアッカとニコルの目は、もうこれ以上ないくらい、無気味なほどに輝いていたのだ。
キラに肩を叩かれるニコル。
キラに労られるディアッカ。
どれも、イザークほどではないが、あり得ない気がする。


「でも…俺は凝り性でもないし…イザークに、譲った。」


ニコルとディアッカの顔があまりに眩しすぎて、アスランは早口でぼそっと言った。
これでもう、話は終りにしたい。
早く仕事を終らせて、キラに謝りに行きたいのに…。
しかし、そんなアスランの思いもむなしく、次にアスランが見たものは。
ディスプレイを2分して映る、ニコルとディアッカの驚愕の瞳。
それを目にした途端、アスランは反射的に自らの耳を手で覆っていた。


『『えええええええええええっっ!!?』』


同時に響いてくる、息の合った叫び声。
耳を塞いでも尚頭を痛めつけたその大音声に、アスランはもうわけがわからなくなっていた。
今日は、確か自分の誕生日のはず。
なのに、どうして当人でもない者ばかりが、こうも五月蝿いのだろう。


「もったいない…!!」
「もったいねぇ…っ!!!」

「だから、俺は凝り性じゃないと、言っているだろう…!」


尚も絡んでくる2人に、アスランの声が不機嫌なものへと急変した。
途端、水をうったように静かになるニコルとディアッカ。
そうしてしばらく、2人がコソコソと会話を始めた。


『アスラン、もしかして、知らないんじゃないですか?』

『……の、ようだな。』


ボソボソと呟かれる2人の声が、嫌でも耳へと入ってくる。
2人の、こんなに真剣な顔は、かつて見た事があっただろうか。
アスランは、もう仕事をするのも馬鹿馬鹿しくなり、シートにだらしくなくうなだれる。
すると、話し合いの終ったと思われるニコルとディアッカが、人の悪そうな笑みを浮かべてアスランを見た。


『なーんだ。いらないなら、僕、買い取りましたのに。』

『イザーク、ラッキーだな〜♪』

『ねぇ、僕なんて、自分の誕生日がこれほどまでに待ち遠しかった事なんて、ありませんよ。』

『ホントホント。』

『あーあ、今ごろイザークは…。』

『うらやましい……!!!!』


アスランはただ、目を瞬かせて、2人のうっとりとする表情を見つめていた。
クルーゼ隊は、年寄りの集まりなのか…と、呆れながら。




「イザーク、気持ちいい…?」

「ああ、もう少し、下を頼む。」

「うん。ここ?」

「そう。」


アスランが、もったいぶるニコルとディアッカの話をうんざりして聞いている頃。
時既に遅く、アスランの"肩叩き券"を譲りうけたイザークは、満足気にベッドに横たわり、キラの"肩叩き"サービスを受けていた。


「もう少し、下…。」

「はーい、どう?」

「ああ、いい…。」


キラはイザークの背に素足で跨がり、その細い指で懸命にマッサージを繰り返している。
その力加減は何とも絶妙で、数十年の経験を積んだプロを思わせた。
更に背中で小刻みに揺れるキラの体温が、それはもう夢見心地。


「もう少し下……。」

「イザーク疲れてるんだね。…ここ?」

「もう少し下…………。」


目を閉じ、枕に顔を埋めるイザークの表情は、もう彼を知る人物から見ると気味の悪いくらいに穏やかで。
その彼の肩を…いや、既に腰の位置まで落ちてきたキラの手は、従順なほどイザークの指示に従ってくれる。
本当に、アスランは馬鹿なやつだ。イザークは内心、ほくそ笑んだ。
おかげでこうして至福を味わう事ができる。
初めて感じるアスランへの感謝を胸に、イザークは身体を無理に反転させた。


「今度は前も、頼む。」

「あー…うん、いいけど…最後までは、ダメだよ?」

「いい。気持ちよく、しれくれ。」

「はーい。」


キラの細い指は、迷う事なくイザークのベルトにかかる。
最初は肩、そして徐々に背中、腰、腕への細かなマッサージ。
太股から足の裏迄、隅々と解きほぐした後は、男性自身。
それが、キラの言う"肩叩き"の全容だった。


キラがどうやって、風俗まがいのマッサージ方を会得したかは解らない。
しかも、それら全てが"肩叩き"だと勘違いしている所が妙に気になったりもするが。
しかしもう、そんな事はどうでもよかった。
そう、後に来る、強烈な快楽を思えば。
キラの手が慣れた仕草で、イザークの服の下から彼の既に立ち上がったものを探り当てる。
その心地よさにうっとりと目を閉じながら、イザークは人生で2度目の悦楽に身を投げるのだった。


本当に、アスランは馬鹿だ…。
そして、ありがとう。




「キラーーーーーーーーーーーーっっ!!どこだーーーー!!!」




アスランが、キラの"肩叩き"についての講義を受け終り、慌ててその姿を捜しまわったのは、イザークが至福に包まれて眠りについた後の事だった。




その後……




あらん限りの大声を上げながら、
アスランがようやくキラを捕まえる事ができたのは。
キラがイザークの部屋を出た後の事だった。
徹夜の疲れと、キラの"肩叩き"効果でぐっすりと眠りに落ちたイザークに、静かに「おやすみ」と言葉を残して、キラはイザークの部屋を出た。
何かをやり遂げた後のような満足感に包まれながら、鼻歌まじりに廊下をぶらぶらしていると、むこうからすごい勢いで走ってくる者がいる。


「あれ、アスラ…」

「キラっ!!!」


大きな叫びとともに、目前まで迫る、赤い影。
息をきらして、髪を乱して、随分と取り乱した風のアスランに、キラは小首を傾げた。


「どうしたの、そんなに慌てて…」

「あの券は!?」

「…なに?」

「肩叩き券だっっ!!」


アスランは未だ整わない息もそのままに、キラの肩をぐっとつかみ、自分の方へ引き寄せる。
そうして見たキラの手に既に"あの券"がないのを確かめると、怒ったように眉根を寄せた。


「イザークにあげたよ。アスランが言ったんでしょ。」

「……それで、イザークは…っ…」

「もちろん、喜んでくれたよ?アスランにお礼言ってた。」

「……っ………」

「…………………………今更、何。」


キラは、忘れたわけではない。
アスランに"肩叩き券"を返された時の、ショックを。
アスランは、日頃から頑張り過ぎるほどに頑張ってるから。
きっと、疲れもたまってるし、ストレスもたまってるだろうな、と思ったから。
"あれ"でいこうと思ったのに。
イザークも、クルーゼも、喜んでくれたから、アスランもきっと、絶対喜んでくれると思ったのに。
突き返されはしなかったものの、やんわりと断られた。

その時の気持ちときたら。もう"ショック"の域を超えていた。
哀しみ、後悔、挫折。そして、敗北感。
笑顔でそれを与えてくるアスランに、一瞬殺意まで感じたほどだ。
イザークに喜んでもらえて、それらの感情はいくらか治まりはしたが、
再びそのネタをふられると、嫌でも思い出してしまう。
ふつふつと沸き起こる怒りはキラの表情を、いっきに不機嫌なものへと、変貌させた。


「……あの…。」


そんなキラを目の当たりにして、アスランは言葉を詰まらせる。
今更、という言葉通り、一度返したものをまた欲しいなんて、
虫がいい話だという事に、今更ながらに気付かされたのだ。


「その……」

「だから、何。」

途端しおらしく俯いたアスランに、キラは不機嫌を隠すこともなく告げる。

「何もないなら、僕、行くけど?」

「いや、その…!」


そのまま通り過ぎようとする腕を慌ててとって、アスランは、再びキラを引き寄せた。キラのあまりに不機嫌な瞳に、どうしていいのか解らない。
まずは、謝る。そう、さっきから、謝ろうとは思っていた。
…それから?それから……キラに……。
キラの腕をとったまま、キラの顔を見つめたままの体勢で、固まってしまう。
キラの不機嫌な顔が、だんだん心配そうな表情に変化しても、アスランは固まったまま、動かなかった。


「……アスラン……?」

「……その……」

どうしよう。今更。

「………アスランってば。」

「……えっと……」


キラからの、"プレゼント"。
一度は返してしまった、"至福のチケット"…。
今の自分の思考が、イザークのそれと全く変わりない事をアスランは知る由もない。
ただ違うのは、イザークはその味を知っていて、アスランは、知らないという事。
アスランは、どう言っていいものか、困りに困って、
まるで言い訳を探す子供のように、顔を真っ赤にして立っていた。


その様子が、何だか気の毒で。放っておいたら泣きそうで。
キラこそ、困ってしまう。
少しいじわるな態度をとってしまったかな、と笑顔を作ろうとしたキラは、アスランの顔が何かを思いついたようにパッと輝くのを見た。


「……そうだ……」

「え?」

「俺が、キラに"肩叩き"してあげるよ。」

「……は?」


何を言われたのか解らず、キラの目が点ほどに小さくなる。
しかしアスランは、最高の言い訳を見つけたとばかりに満面の笑みを浮かべて、キラの手を握り直した。


「だから、キラに"肩叩き"してあげる。俺は、されたいんじゃなくて、したいんだよ。」

「………………へ?」


そして、今度は逆に硬直してしまったキラを引いて、自室へと歩き出す。
キラはされるがままにアスランの後について歩きながら、クエスチョンマークを飛ばしていた。


「そうだ、俺はする側なんだ。だからキラがやってくれるとか、返してもらうとか、関係ないじゃないか…」


長い廊下を歩きながら、アスランがブツブツと呟くのが、聞こえてくる。
それを奇妙なものでも見るように見つめながら、キラは促されるままにアスランの部屋へと入った。


「ほらキラ、服脱いで。俺がやってあげるから。」

「…はい?」

「だから、"肩叩き"、キラにしてあげる。」

「……何で、僕がしてもらう側なの?今日はアスランの誕生日じゃ…」

「だろ?だから、祝ってくれる気持ちがあるなら、ベッドに横になって。」

「…何で?」

「俺がしたいから。」

「何、を…………?」

「俺なりの、肩叩きだよ。」


それから数時間後。
アスランの肩叩きは、キラのそれを遥かに上回る時間、続いた。
内容については、きっと実体験したキラしか、知ることはないだろう。
誰かに触れ回りたくても、誰にも言うことのできない、"肩叩き"。


「アスランの"肩叩き"は、全然"肩叩き"じゃない。」


翌日キラは、ベッドの中でふて腐れながら、それだけ言った。


written by Break Heart's:らん様

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UpData 2005/07/22
by(c)RakkoSEED