「キーラ!ほら、服までグショグショじゃないか!!」
オレンジジュースを頭からかぶったキラをアスランは急いでバスルームまで連れて行く。
人間の5歳児程度の大きさにウサギの耳と尻尾がついているキラウサギ。
最近までブームとなっていた遺伝子を組み替えたペット『種ウサギ』だ。
今でも人気のペットだが、ブームが過ぎると同時に飽きた飼い主が捨てるということが、今問題になっている。
キラもそんな捨てられた『種ウサギ』で、アスランが先月保健所で安楽死させられるのを貰ってきてそのままペットとして飼っている。
叱られたキラはシュンッとうなだれ、アスランにいわれたように着ていた服を脱いだ。
柔らかい亜麻色の髪も、かわいらしい耳もジュースでベタベタしていて。
「食べ物で遊んじゃいけないってあれだけいっただろう。」
キラの上に丁度よい温度のシャワーをかけながら、アスランはキラを叱る。
人間が世話をしなくてもある程度のことはできる『種ウサギ』。
そのことは、まだ大学に通っているアスランにはとても助かった。
それでも、キラがいるからとなるべく家には早く帰るようにしていた。
しかし、今回だけはどうしても外せない用事があって、帰りが遅くなるからと、キラの夕食を作り置きしておいたのだ。
そして、アスランが家に帰るとキラは盛大にテーブルの上の料理を溢し、一人床で泣きじゃくっていた。
「だって・・・・ひっく・・・アスランが・・・・僕を置いていったのかと・・・ふぇっく・・思ったんだもん・・・」
泣き出すキラに先に根をあげたのはアスランだった。
本当ならもっと躾けなくてはいけないのに、いつものように甘やかしてしまう。
「キラ、俺は絶対にキラを捨てたりしないよ」
「だって・・・だって・・・前の人は・・・すぐ戻るって・・・ひっく・・・言って僕を捨てたんだもん・・・・」
「キラ・・・・」
ぬれるのもかまわずキラの小さな体を抱きしめてやる。
キラは少しだけ癇癪もちであった。
それは、生まれてすぐそのまま捨てられて、保健所の職員に手荒に扱われたことからくる精神的ショックからきている。
不安になるとキラはそれに耐えられなくなり、あたりのものに八つ当たりをしたあと泣き始めるのだ。
アスランはキラをきれいに洗ってあげると、ふわふわしたバスタオルで包んであげる。
そのままリビングに連れて行くと、キラの髪を丁寧に拭き始めた。
うなだれペタリと頭にくっついている耳。
それも丁寧に拭いてあげる。
「もう、遅くならないから機嫌直して」
「・・・・・ほんと?」
「本当だよ。」
タオルで拭くだけで、すぐに乾いてしまうふわりとした毛並み。
アスランはそんなキラのつむじにチュっとキスをしてあげた。
「////////////////」
とたんに体全体が赤くそまるキラ。
純粋なキラは頬や額にキスをするだけで、このように真っ赤になる。
そんなキラを可愛く思いながらアスランはキラにパジャマを着せてあげた。
「おなか空いていない?」
夕食を全部こぼしてしまったから、何も食べていないキラ。
しかし、キラは顔を横に振ると、とてとてとアスランのそばにより、ギュッとアスランに抱きつく。
「もう、寝たい/////////」
一人ぼっちが嫌いなキラはいつもアスランと同じベットで、アスランに抱きしめられながら寝ている。
「そうだね。でも、明日の朝食はちゃんとたべるんだよ。」
アスランはそういうとキラを抱き上げ、そのまま寝室へ行った。
「あのね『親指姫』がいい」
寝る前には絵本を読んであげるアスラン。
しばらくして、寝室からはキラのお気に入りの『親指姫』を読んで聞かせるアスランの声が聞こえてきた。
アスランの膝に座りこくこくと船をこぎ始めるキラ。
アスランはそれを見てクスッと笑う。
本当はペットなんて大学に連れてきたらいけないのだが、キラがあんまり寂しがるから今日は大学に連れてきてしまった。
大学に連れてこられたのがよっぽどうれしいのだろう。
今まで、キラはアスランの真似をして、黒板の文字をキラ愛用のスケッチブックに写していた。
とはいっても、字のかけないキラ。
キラのスケッチブックには色とりどりのクレヨンで字とは到底思えない幾何学模様が書かれている。
しかし、眠いと評判の加藤教授の授業。
キラがアスランの真似をしていたのは少しの間で、すぐにこのように居眠りをし始めた。
本来ならばキラはこの時間まだ寝ているのだ。
アスランはキラが眠りやすいように膝枕をしてあげた。
キラはそのままアスランの服のすそをつかむとスヤスヤと穏やかな寝息を立てはじめる。
時々、髪を梳いてやりながらアスランは授業を再び聞き始めた。
「アスラン君、この間のノート、コピーする?」
「今度、コンパがあるんだけど出席してくれないかな。」
「サークルの試合が今度あるんだけど助っ人として出てほしいの。」
「その『種ウサギ』可愛いわね。触ってもいい?」
授業が終わった後、目を擦って必死におきようとしているキラを抱きかかえ、アスランが教室を出ようとすると、たくさんの女子生徒がアスランの周りに群がった。
口々に色んなことをアスランに話しかける女生徒。
中にはキラを抱きかかえていないほうの手に自分の手を絡める者もいて。
しかも、なぜか皆、やたらと服や化粧に力が入っているのだ。
煩わしそうに、それでも丁寧に女生徒の相手をしているアスラン。
そんなアスランにキラは少しだけ不機嫌になった。
「おなかすいた」
邪魔をするようにそういうキラ。
「そうだね、キラ。ごめん今から食事の約束があるから」
良い口実とばかりにアスランはその女生徒の群れから逃れた。
「へー、お前の種ウサギ?ちっこくて可愛いな」
そう言ってキラの頭を撫でようとするディアッカの手をいやいやするように避けるキラ。
初めて合う、色が黒くて大きな人間にキラは少しだけ怯えていた。
ディアッカとはつい先ほど会ったばかりだ。
昼食を取ろうとしたらばったりと遭遇し、そのまま一緒に昼食を取っている。
「怯えさせちまったようだな。」
ふるふると震えて、アスランの胸に顔を埋めるキラに、ディアッカはすまなそうにそう言う。
「キラ、ディアッカは黒くて大きいが、キラに危害を加えるような奴じゃないぞ」
安心するようにキラの背中を撫でてあげながらそういうアスラン。
「いいって。俺の飼ってるのもやたらと人見知りするしな。」
「ディアッカがペットを飼ってるなんて初めて聞いた。種ウサギなのか?」
「まあな。イザークって言うんだけど、愛想は無いわ、好き嫌いは激しいわでたいへんなんだ。」
そうイザークの愚痴をこぼすディアッカだが、それが可愛くてたまらないと言わんばかりにとろけそうな笑顔を浮かべている。
「ふーん、キラもピーマンやニンジンが食べれないな。」
そう言いながら、アスランは注文したカレーをフーフーと冷やすと、膝の上のキラに食べさせる。
本当は自分で食べれるのだが、アスランが一緒の時はキラは甘えて食べさせてほしがるのだ。
「お前のはいいな。俺なんて食べさせようとすると噛みつくんだぜ。そのくせに、魚の骨とかは取らせるし・・・」
「キラもたまに噛みつくぞ」
口をあ〜んと開けるキラにアスランは再び冷やしたカレーを食べさせる。
「寝ているとき食べ物の夢を見てるんだろうな。眠りながら俺の指を噛むんだ。容赦ないからとても痛い。」
「贅沢な悩みだな。一緒に眠ってくれるだけでもいいじゃないか。イザークは寝室を陣取って中に入れてくれないんだぜ。・・・って、これ食うか?」
キラがディアッカのトレーの上にのったプリンをじーっと見ているキラに気付きそう聞くディアッカ。
少し怯えつつもキラはこくこくと頷く。
「悪いな。」
「いいって、甘いものはそこまですきじゃないからな。」
サクランボの乗ったプリンが目の前に来て、目を輝かせるキラ。
「キラ、お礼は?」
「ありがとう」
「良くできました」
「えへ//////////////////////////////」
アスランに誉められてうれしがるキラ。
「ほんと、うらやましいぜ〜〜〜〜〜〜〜」
written by 地球儀の部分:朱緋様