「アスラン、あなたにお願いがあるの」
「母上……?」
久しぶりに見るレノアは上下藍色のスーツを纏っていた。
アスランとよく似た夜色の髪と緑の瞳によく似合っている。
普段自宅に帰ってくるときは、もっとラフな服装である彼女のその姿に少なからず驚いたアスランだったが、レノアの言葉にさらに驚く。
「お願い、アスラン。あなたにしか頼めないことなの」
アスランの母であるレノア・ザラがこの家に帰宅することは珍しい。
月によくて一回。
それも半日や数時間というもので、すぐに仕事先に戻ってしまうため、帰宅というよりも訪問と言ったほうが適切なくらいだ。
しかし家にいるときは普段ならアスランがする料理や掃除をし、家にいれない間を埋めるかのように母親に徹する。
そんなレノアがアスランにこのように何かを頼むことは初めてだった。
リビングに通した時から、久しぶりの帰宅であるはずなのに、表情がどこか強張っていたことや、彼女の服装からその頼みが突発的でないことが察せられる。
「どうしたんですか……、いったい何が?」
テーブルにカタンと置かれる客用のティーカップ。
注がれたダージリンティーがアスランの動揺を表すように揺れた。
レノアは急いでいるのか、それとも余裕が無いのか、普段なら二ついれる角砂糖を無視して紅茶を呷る。
「有難う、美味しいわ」
言葉は形式的なものだった。まだ仕事があるのだろうか、しきりに時間を確認している。
「アスラン、あなたは自慢の息子よ」
「はい……、有難うございます」
無意味に褒めるレノアに、アスランは無意識に後ずさりをする。
こんなときは良い事があった覚えが無い。
アスランに何かさせようとするときのレノアの常套手段だ。
昨年は、彼女の仕事場の新年会で熟女相手にお酌をさせられ、その前の年は数年間住んだ月から行き成り引越しさせられた。
特に思い入れがあったわけではなかったが、本来難しい年代である少年に対して酷い仕打ちだ。
女装させられたこともある。
しかも彼女の友人の息子である白髪おかっぱと並ばされ、写真まで撮られた。
あれが父の仕事場に飾られているという噂の真偽は定かではないが、忌々しい記憶の一つだ。
「アスラン、何故離れるのかしら?」
「いえ、気のせいかと……」
そう言いながらも、逃げるように離れて行くアスランの手をレノアが両手で包み込むように捉えた。
彼を見てにっこりと微笑む。傍から見れば優しい母親だろうが、前例がたくさんあるだけにアスランにとっては恐怖でしかない。
「アスラン、本当にあなたは私の自慢よ。幼い頃から私たちが仕事で忙しいばかりに、よく一人にしてしまったけれど、立派に育ってくれて嬉しいわ。よく仕事仲間からアスランを紹介してくれって言われるのよ。丁寧な写真つきで」
いわゆるお見合い写真だ。
「は、はぁ……」
年上の女性が悪いというわけではないが、母と同年代もしくはそれ以上の女性は流石に遠慮したいと思うアスランは、レノアに生返事を返す。
「その八割は男性だけどね」
「…………」
女性ですらなかったらしい。
同姓結婚ができるコーディネイターならではのことだろう。
「さすが私似の顔だわ。性別問わないなんて素敵よ」
「……結局褒めたいのは自分なんですか……」
「何か言ったかしら?」
「いえ、何も」
微笑みの恐怖に耐えながら、アスランはぶんぶんと首を振る。
幼いころの教育の賜物か、それとも父の血を引いたせいか、レノアにはどうしても逆らえない。
「それで、アスランあなたに預かって欲しい子がいるの」
レノアが横目で見つめる視線の先には、バスケットがあった。
決してプラスチックや擬似植物ではなく、本物の植物のツルで編まれたものだ。
それはレノアが持ってきたものであり、アスランも彼女が帰って来た時から気になっていたものだった。
スーツに似合わない、ファンシーなかご。
はじめは土産かと思ったが、一向に渡される気配が無く。
リビングに来てもテーブルの上に鎮座されたままだったため、書類でも入っているのだろうと思っていた。
趣味が少し変な方向に変わったのだろうと。
しかし、どうやら今回の帰宅の理由がこの中にあるらしい。
ピンクのフリルのついたハンカチがかけられているため中は窺えないが、上等なフルーツが入っていそうなかごから、「すぅすぅ」と音が聞こえる。
耳を澄まさないと聞こえない程度だが、生物の寝息のようだった。
「生物ですか……?」
やはりバスケットの中は生物らしく、レノアはアスランを褒めるようににっこりと微笑む。
その笑顔に条件反射で体を引かせるが、レノアが手をしっかりと握っているためそれは叶わない。
アスランは汗を浮かべながら、レノアを見つめた。
早く解放してくれ……。
「私が遺伝子の研究をしているのはアスランも知っているわね」
「……ええ」
その所為でだだっ広い家に独りで住んでいるのだ。知らぬわけは無い。
今は思わなくなったが、幼年学校時代はそれなりに寂しい思いをした。
「違法の遺伝子研究を取り締まるのも仕事のうちなのよ。この子はある研究機関で――」
「つまり、押収品ということですか?」
「……ええ、そうよ」
アスランがレノアの言葉を予想して言うと、当たったらしく彼女が頷く。
レノアの表情は先程と打って変わって、怒気をはらむものだった。
遺伝子操作されたコーディネイターの存在が法で認められた今、ペットの遺伝子操作はよく聞く話だ。
定められた機関行えば操作は幅広く認められている。しかし非合法なものも多々ある。
たとえば種族の違う生物を掛け合わせにより将来に子孫を残せない生物や、殺傷能力を極限まで上げられた生物。
そして遺伝子操作ゆえに短命であるものは、法律で禁じられている。
バスケットの中の物もその一つであることが用意に察せられた。
「酔狂な金持ちがね……」
短命であれ何であれ不幸にする遺伝子研究を許せないのだろう。
レノアは手が白くなるほど握り締める。
アスランも表情を濁らせた。手も痛いが、それだけではない。
「ここならセキュリティは完璧だし、あなたから情報が漏洩することも無いでしょう。処分が決まるまでの一時的なものでいいの。一週間で良いわ。その間だけこの子を預かってくれないかしら。とても可愛い子だから手はかけないと思うわ。あなたまだカレッジの方休暇中でしょう。アスラン、お願い……」
レノアは深く頭を下げた。
藍色の髪が耳から落ちて床に影を作る。
握る手には力がこもっていた。
ただ熱意の表れと取ればいいのだろうが、何故か「逃げるなよ」といわれている気がしてならない。
アスランは覚悟を決めた。
「顔を上げてください」
違法の遺伝子研究の末に出来た動物はメディアでの情報で何度か見たことがある。
有毒な物質を内臓で作る犬。
死んだペットを再びと望むあまり作り出された、テロメアの短い短命なクローン。
違法な遺伝子操作に対する怒りと、小さな正義感。
そしてさっさと手を放してくれという思いがアスランを頷かせた。
「……分かりました、一週間ですね」
母の忙しさをよく知っているアスラン。
断ることなど出来るはずがなかった。
「ありがとうアスラン」
レノアはほっとしたように笑顔を浮かべ、アスランの手を解放した。
「これは極秘事項よ。知っているのは私とあなた、そして限られたものだけ。何があっても外に情報は漏らさないで」
母が颯爽と去って行った後。
アスランは置かれたバスケットを見つめた。
そこからは依然規則正しい寝息が聞こえる。
「一体どんな生物なんだ…?」
かごの中を確認するために、アスランはバスケットに手を伸ばす。
仕事が残っているらしいレノアは早々に戻ってしまったため、生物の情報については聞きけなかった。
種族が分からなければ食事の準備も出来ない。
危険かとも思ったが、レノアの「可愛い子」という言葉を大人しいという意味に取ることにする。
もし襲ってくることがあったとしても、寝起きの動物に負けない自信もある。
それに流石の母でも生命に危険が及ぶようなものを息子に任せはしないだろう。
犬だろうか猫だろうか。
できればハムスターかインコがいいなと、小動物がけっして嫌いではないアスランは、少しだけ期待しながらハンカチをめくった。
「………………」
たっぷり数十秒の沈黙。
アスランは表情も手も動かすことが出来ずに固まる。
脳内処理速度が追いつかない。
無表情で、しかし確実に動揺しながら、アスランはハンカチを元のようにバスケットかけた。
仕切りなおすように深い深呼吸をして、もう一度めくる。
「………………………………」
一応眼球の異変かと思って、目をこするが、目の前の物体に変化は無い。
瞬きをしようと、深呼吸をしようとも、そこにあるものは同じだった。
「――――え、えぇっ!?」
アスランの声に目を覚ましたのか、それとも窓から入る秋風が冷たかったのか。
バスケットの中の白い肌が、敷き詰められたシーツの上でもそもそと動く。
そして数度瞬きをすると、ゆっくりと体を起こした。
手を伸ばして、ふぁと可愛いあくびをしながら背筋を伸ばす姿は犬でも猫でも、ましてハムスターでも鳥でもない。
だがアスランはあくびをする者にそっくりな生物を知っていた。
「人……」
そう。
しいて言うのならホモサピエンス。
腕・足・顔、それらすべては一番見慣れた形をしていた。
一糸纏わぬ肌は白く、瞬かれるまつげは影を作るほどに長い。
瞼の下の深い紫はアスランが今まで見ただれの瞳よりも美しく、揺れる茶色の髪は、絹糸のように柔らかそうだ。
凝視するとそれが伺えた。
「人……なのか?」
「うぅ〜ん、よく寝たぁ〜」
声を発したことによりそれが肯定される。
犬や猫の鳴き声を人語に変換する機械はあっても、人語を使う動物はまだ発表されていない。
しかし、人だというにはそれは異質だった。
すごく小さい。
子供というよりも、子供が遊ぶ人形のようだ。
ガンプラでいうところの、100分の1スケール。
まるでそれの人間版のようだった。
(彼は10分の1くらいだろうが)
ロボットだろうかと思って顔を近づけて覗くが、すぐにそれは否定される。
「あれぇ…。ああっ、僕ごめんなさい!」
アスランの存在に気がつき、あたふたと慌てる表情の精密さはロボットではない。
人間と同じような表情をさせることはいまだ難しい。機械工学を学ぶアスランだからこそ、それはよく分かっていた。
ロボットではない。人形ならば動かない。
呪いの人形というのなら話はまた別だが。
自分の名前を叫びながら人形がはさみを振り回すホラー映画を脳裏に浮かべ、アスランはその思考を振り払うように首を振った。
しかし、アスランはそっちの方が良かったのではないだろうかと思うことになる。
手のひらに乗れそうなほど小さな体の彼は、慌てて正座をする。
そして三つ指をつくと、頭を下げた。
「はじめまして、ご主人様。僕キラといいます。よろしくお願いします!」
にっこりと微笑む顔はアスランが今まで見たどの笑顔よりも無垢で、あどけなく、可愛いものだった。
「……は?――ご主人様!?」
アスランの微妙に外れた反応に、目の前の小さな彼は笑顔で元気よく返事をする。
「はい!ご主人様」
これが、キラとの一週間の始まりだった。
===========================
「うわぁっ、あっち行って!」
トタトタと軽い足音が耳元で響いた。
「こっち来ないでよ!!…こないでってばぁ〜」
初めは強気だった声も、次第に涙混じりのものになってくる。
「助けてくださいご主人様――!!」
仕舞いには助けを求めだした。
夢か。
これは夢だろうか。
アスランは自問しながら、眉間のしわを深いままに、閉じる瞼に力を込める。
窓から射す朝日と、その小さな声はアスランの目覚めを強要するが、アスランは毛布を強く握り締めて、枕に顔をうずめる。
このまま柔らかなベッドで眠ってしまうことが何よりの望みであった。
いつもは煩わしい眠気をアスランは初めて渇望した。
「ご主人様、ヤツが来ます!!殺されちゃいます――!!」
レノアがアスランに違法な研究の結果生まれた生物を持ってきて、早一日が経過していた。
アスランはあの後、疲れの所為でこのような幻視が見えるのだと無理やり自分を納得させることに成功した。
重要機密だというかごをベットの横の机に置き就寝。
まだ昼だったが、疲れを取るには睡眠が一番だと思った。
しかし、ハムスターハムスターと呟きながらも眠れることはなく。
いつの間にか呟きは「ハムスターが一匹…」に変化し、結局十億二千九百十七まで数えたところで朝を迎えてしまった。
夜こそ歌ったり踊ったりと騒いでいたハムスター(希望)だが、今はしっかりと睡眠をとったらしくバスケットから出て走り回っている。
彼がベッドの上で右往左往するたびに風がアスランの前髪をそよがせた。
「おきてください、ご主人様―!!」
頬に小さな感触を感じる。昨日見たあの小さな手で叩かれでもしているのだろう。
アスランはもう「ハムスター」と呟くことは止めていた。
哀しいことだが、レノアが持ってきた用件ということで、普通だと思ってはいけなかったのだ。
「嘘……、ご主人様もしかして?……やだやだ、来ないでっ!!」
頬を叩かれる感触も消え、ハムスター(諦め)はついに泣き出してしまった。
アスランは崩れた希望に縋るのを止める。
ハムスターであればいいとは思うが、こんなになかれては、流石に良心が痛む。
時には人間諦めも肝心だ…。
アスランは自分にそう言い聞かせた。
「どうしたの……?」
目を開けると、アスランの鼻先で昨日見た少年が膝をついて泣いていた。
人間を10分の1にしたような姿はやはりハムスターではありえない。
現実を直視したアスランの体をどっしりとした倦怠感が取り巻くが、泣く子供(?)にそれを見せることは出来ず、アスランは笑顔をつくって対応する。
「えーと、キラ?」
思い出したくも無い衝撃の記憶の中から彼の名前をひっぱりだすと、途端にキラの大きな紫色の瞳からポロポロと透明な水滴が零れ落ちた。表情は歓喜に染まっている。
「よかった、ご主人様。生き返ったんですね!」
アスランの生還を彼の鼻に抱きつきながら喜ぶキラ。
何を誤解してかは知らないが、アスランは死んでいたらしい。
「……あ、ありがとう?」
どんな反応をするのが正解か分からずに、お礼を言う。
何が有難うかはアスラン自信分かっていないが、キラには意味があったらしい、ほにゃりと顔を緩めて笑顔になる。
「おはようございます。ご主人様」
キラは頬に伝う涙を拭うと、正座をして再び昨日のように指をついて頭を下げた。
あげた顔には満面の笑みが広がる。
キラの体にはバスケットにかけてあったハンカチが巻かれていた。
今は初秋、しかも窓は開いている。寒かったのだろう。
素肌に巻きつく簡易ワンピーツのつなぎ目から白い足が覗いていた。
付け根ギリギリのところでフリルが可愛らしくあしらわれていた。
拭いきれなかった涙が瞳を潤ませ、歓喜していた頬は紅潮している。
「……じょ……」
情事後?と言いそうになるのをアスランは寸でのところで飲み込んだ。
自分の思考を叱咤しつつ、体をおこして一応最後の砦として自身の手をつねってみる。
鈍い痛みがあった。
「……夢オチはなしか」
「え、ユメオチって何ですか?」
「いや、なんでもないよ。おはよう。助けてって言っていたけどどうかしたの?」
レノアの仕事。
そう思えばこの少年のことも納得できそうだ。
キラはアスランの言葉に先ほどまで自分に迫っていた危機をやっと思い出したらしい。
ああっと声を上げて身をすくませる。
体を隠すところを探しているらしくきょろきょろとするので、手を差し出すとしがみ付いて体を震わせた。
「ご主人様、ヤツが来ます。気をつけてください!!」
キラが指差す先には、ひらひらと舞う白い蝶が一匹いた。
「モンシロチョウ?」
淡い羽根。
羽根先は黒く染められ、白の羽根にも楕円のような黒の模様がある。
蝶はプラントに持ち込まれた数少ない昆虫類の一つだ。
窓から入ってきたのだろう。
ありふれているわけではないが、キラほど珍しいものでもない。
遺伝子操作され知能が上がっているのか、キラに興味があるらしくひらひらと纏わりつくように舞う。
「助けて、ご主人様っ!!食べられちゃう――!!」
手だけでは怖いらしく、簡易ワンピースを崩してキラはその中に潜ると、蝶がその上に乗った。
下からは悲愴な泣き声の混じる悲鳴が聞こえる。
どのようなところで育ったかは知らないが、蝶をみるのが初めてなのだろう。
「大丈夫だよキラ。出ておいで、彼は肉食じゃないから」
蝶を払うように手てを振ると、今度はヒラリとアスランの手に乗る。
手乗りとして調整されているのだろうか、やけに人懐こい。
それとも甘い蜜でもついているのだろうか。
「……本当ですか?」
フリルの間からキラが顔を覗かせる。
蝶をみてすくむように顔を歪めるが、アスランの言葉に意を決したらしく、そろそろと出てくる。
キラという留め金を失ったハンカチはアスランの手からベッドへと落ちる。
「きっと君と友達になりたいんだよ」
適当に言ってみると、キラはぱっと泣き顔を笑顔に変えた。
「本当?!」
アスランではなくモンシロチョウへ向けての言葉だ。
純粋なその行動に、アスランは胸中で「……多分」と付け加える。
「あのね、僕キラ。君は?」
早い変わり身で、キラは蝶に向けて小さな手を差し出す。
握手のつもりだろうが、生憎蝶は手を持ち合わせていない。
触角でも握ろうというのだろうかキラは。
しかし蝶は、キラとの握手……握角に答える事無く、そのまま部屋の角を旋回すると、開いた窓から飛んでいってしまった。
彼と言ってしまったが、もしかしたら彼女なのかもしれない。
「女心と秋の空……?」
キラの差し出した手が淋しそうだった。
それでもその手で去り行く蝶の背中に手を振っている。
「電池が切れたのかな?……明日、きてくれるかな?」
遺伝子操作されても蝶だ。
いいとも!とは言え無いだろう。
「クシュンっ…」
キラが可愛いくしゃみをする。
小さいために声も小さい彼なので、耳を澄まさなければ聞こえないような小さな音だ。
もしかしたら先程からしていたのかもしれない。
キラはレノアが持って来たときからずっと裸だった。
「えーっと、キラ。とりあえず巻いててね」
アスランはキラの首前で、ベッドに落ちていたハンカチを縛ってやる。
小さい頃見たアニメの主人公のようだった。
「ありがとうございます、ご主人様」
「どういたしまして。とりあえず、服だな…」
アスランは、服を用意していなかったレノアを少し恨めしく思う。
しかし気の利かない彼女ではない。それほどに忙しかったのだろうと思いなおした。
『可愛い子だから手は掛けないと思うわ』
アスランはレノアの言葉を反芻させながら溜息をついた。
確かに可愛いが、まさかこのようなものだったとは……。
アスランの溜息があまりに重々しかったため、キラが伺うように覗きこんで来る。
大丈夫ですかと聞かれ、大丈夫だと答えるが気分はさらに暗くなる一方だ。
蝶を電池で動いていると思い、寝ていれば死んでると思うキラ。
可愛くても、手は十分に掛かりそうだった。
それ以前にどうすればいいのかレノアにはまったく聞いていない。
食事、その他人間には無い慣習があるかもしれない。
「キラ少し質問していいかな?」
「もちろん!何でしょう、ご主人様」
呼ぶとキラは嬉しそうに顔をほころばせて返事をする。
「君は母に何か言われたかな?」
「母?レノちゃんのことですか?」
アスランはキラの口から出てきた聞きなれない単語に固まる。
「……レ…ノちゃん?」
「どうかしましたか、ご主人様。顔色がっ!?」
「いや、何でも無いよ……。それで何と言っていたの?」
「今日から息子と一緒に暮らしてね。同じ年だからきっと気が合うと思うの。少し頭の固い子だけど、きっと大丈夫よ私の息子だもの。と仰ってました」
「えっ、キラ同じ年なのかっ!?」
意外な言葉にアスランは驚く。
小さいので子供だと思っていたし。
顔を見てもとても同じ年には思えない。
それどころかもし10倍のサイズにしたとしても三歳は年下に見える。
「僕は十七歳です。ご主人様はいくつなんですか?」
「……誕生日が今週のなんだけど、まだ十六だよ」
アスランが少し矜持を傷つけながらも言うと、キラは嬉しそうに声を上げる。
「僕の方がお兄ちゃんなんですね!それも五ヶ月も」
そんなに嬉しいのか、キラはぴょんぴょんとアスランの手で跳ねて喜んだ。
反応を返し難いアスランだったが、その姿を見て微笑ましい気持ちになる。
もしかしたら人としての人生を奪われてそのような姿にコーディネイトされたかと思うと心が痛んだが、それでもこうやって喜べるということは彼が不幸せではない証明のように見えた。
ぐぅ
あまりに動き回った所為か、キラのお腹がなる。
アスランが時計を見ると八時回っていた。
昨日から食べていないのだ。仕方が無いだろう。
顔を真っ赤にしたキラがアスランを見上げる。
「キラ、食事にしようか。君は何が食べれる?」
「ご主人様が食べれるものでしたらなんでも!」
キラとの食事は予想した以上に簡単なものだった。
犬や猫だったら専用の食事を用意しなくてはいけなかっただろうが、キラはアスランと同じものでよかったからだ。
しいてあげるなら、量が違うだけ。
ライスを一粒あげると、咀嚼を何回も繰り返しながらも飲み込んで行く。
流石にナイフやフォークは無かったが、それでもアスランが分けてやれば苦労はしていなかった。
「美味しい?」
アスランが聞くと、キラはソースをつけた唇を拭って頷く。
「はい!研究所ではこんなに美味しいもの食べさせてもらえませんでしたから!!」
「それはよかった」
アスランは服を買いに行くついでにお菓子も買って来ようと決めた。
きっと彼は喜ぶだろう。
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久しぶりに訪れたショッピングモールは普段と彩りをたがえていた。
オレンジ色のパンプキンが店の前に下げられ、ぽかっかりと開いた空洞が喜色に満ちた笑顔を浮かべていた。
なかにはケタケタと笑い声を上げているのもあったが、その声はショッピングモールの喧噪により掻き消されてしまう。
「いらっしゃいませー、新規オープンの遊園地ですー是非恋人とー」
独特の営業口調で、吸血鬼に扮した少女がチラシを配っている。
口からは鋭利な牙が覗いていた。
世間は来週に控えた祭り一色に染まっているようだ。
アスランはつい受けとってしまったチラシを折りたたむとバックに入れようとした。
しかしバックからにゅっと出てきた者によって阻まれてしまう。
「ご主人様、あれ何ですか?」
「ちょっ、キラ!!」
アスランの肩から下げられたショルダーバックの隙間から顔を覗かせるキラ。
キラの表情は初めて見るものに興味津々といったものだ。
しかし、キラを見られてしまうわけには行かず。
アスランは慌ててキラの頭をかばんの中へと押した。
わっという悲鳴とともに、ドサという軽い音がする。
「いたたっ」
「ごめんキラ。大丈夫?」
謝ると、チャックの間から小さな手がぶんぶんと振られる。
それを大丈夫だという意思表示だと受け取ったアスランはさらにゴメンと付け加えた。
そして出来れば出てこないでくれと。
アスランとキラはショッピングモールに来ていた。
家からエレカを飛ばして数十分のそこは住宅街からは想像できないような慌しさに包まれている。
各店から流れる有線放送がぶつかり合い、人々の会話の声にうもれてゆく。
欲しいものを強請って、駄々をこねている子供。
子供と逸れたのか名前を呼びながら探している男性。
多くのホームドラマを一気に見ている気分だ。
所々でラブコメディも展開中。
本来キラを連れて来る場所ではないことはアスランも分かっていた。
レノアがキラを自分のもとに置かなかったのは、多分情報の漏洩を恐れてだ。
普段ならそのようなことは無いだろうが、キラの存在はトップシークレット。
だからこそ周囲に頼むわけにも行かない。
キラ一人に時間を割ける状況でもないはずだ。
だからわざわざ休暇中の息子を頼ってきたのだろう。
キラを他の人に見られるわけにはいかなかった。
本当は買い物に連れて来るつもりはなかったのだ。
しかし出際になってキラが泣いてごねたために一緒に行く破目になってしまった。
アスランは普段接することは無いが、決して子供が嫌いではない。
寧ろ可愛いと思っている。
純粋な子供に(といってもアスランより年上だが)あの顔で泣かれながら突き放すことはアスランには出来なかった。
充分に気をつけるようにしてアスランは家を出たが、ついて早々にこれだ。先が思いやられそうだ。
しかしキラの存在を知る者でなければ、このような小さな体を見ても何かは理解できない。
アスランでさえ一日を要した。
それだけは唯一の救いだ。
人形とでもロボットとでも理由は作れる。
「分かりました〜」
不服そうな声が聞こえる。
それに苦笑しながら、アスランは用心にとかけてきたサングラスをかけなおした。
頬骨まで覆うようなデザインのサングラス。
赤い視界は思ったよりも狭い。
ドールショップという看板が下げられた店にはいると、そこはむせ返るような花の香に包まれていた。
店の壁には沢山の花が飾られているが、よくみると造花だ。
香はアロマテラピーのようだった。何の花とつかない香は、普段このような香を嗅ぐことの無い者にとっては異臭に近い。
アスランは口呼吸を余儀なくされながら、辺りを見回した。
ピンクのエプロンドレスを着た女性が、いらっしゃいませと頭を下げる。
壁は店員の着る制服と同じ色をしていた。
淡いピンク一色に所々花の模様がちりばめられている。
カーネーションに薔薇にダリアに牡丹。見事に統一性が無い。
部屋を照らす照明はさらにアンバランスさを加えるシャンデリア。
部屋の角にあるソファーはハート型をしているが、あそこに座れるのは可愛い女性だけかまたは無邪気な子供だけだろう。
棚に置かれた商品を見ると、その店内の装飾も納得できるようなものだった。
小さな人形がずらりと横一列に並べられていた。
大きな瞳はキラキラと輝いている。
人形の顔はどれも同じに見えるが、髪型や服はバリエーションにとび、これだけあるのに同じものが見つからない。
インターネットで検索した結果、一番近い人形の専門店だったが、思ったよりも大きな規模に驚く。
今まで足を踏み入れたことのない世界だったが、意外に需要は高いのかもしれない。
服はどこにあるだろうかと、視線を店の端へと移すが、そこで店員に声を掛けられた。
「いらっしゃいませ、何をお探しでしょうか」
頭を下げる店員。
縦に巻かれた髪が揺れる。
どこか笑いを隠したような笑顔をしていた。
「…えーと……人形用の服はありますか?出来れば男の子用がいいんですが」
「はい、衣服でしたらこちらの棚に。男の子用は数が少ないですが、数点でしたらございます。恋人へのプレゼントですか?」
「いいえ、そういうわけでは…」
店員はきょとんとアスアンを見上げる。
恋人あてへのプレゼントを買うため恥ずかしさを殺して店に訪れていたと思っていたのだろう。
視線が疑うものへと変わる。
「では、妹さんに…?」
「いえ……あ」
アスランは自分の失態に気がついて、はっと口を噤んだ。
しかし答えてしまった後ではもう遅い。
このままでは自分用に買いに来たと思われてしまいそうだ。
もう来ることは無いだろうが、それでも嫌だ。
店員の目にサングラスをかけた男はこの上なく怪しく映っていることだろう。
「その…娘に……」
アスラン自身間違ったいいわけだとは思ったが、かといって母と言ってもマザコンと取られかねない。
コーディネイターは十三歳で成人だ。ありえない話ではないだろう。
店員は少し驚きながらも、納得したように頷いてくれる。
「えっ!?」
かばんの中から小さな声が聞こえるが、無視をした。店員も気がついてはいない。
「お若いのに大変ですね。娘さんはいくつなんですか?」
「……二歳です」
アスランは今更ながらにレノアがキラに服を着せていなかった理由を理解した。
忙しいというより何より、ドールショップでアスランを立ち往生させたかったのだろう。
彼女の愛はどこか歪んでいる。
店員に促されるまま進んだ棚には沢山の服が並べられていた。
もちろん人形用のだ。ドレスはもちろん水着や真っ赤な下着まである。
水着の種類も多く、ビキニからスクール水着まで揃えられていた。
シーズンではないだろうに。
「娘さんでしたら、こちらはどうでしょうか。今人気なんですよ」
そういって差し出される服は、赤と黒のコントラストが暗い雰囲気を醸し出すものだった。
どこが良いのかアスランにはよく分からない。
「えーと、じゃぁそれを」
「こちらもどうですか?服的には地味かもしれませんが、上下別ですので組み替えも自由に出来ますし。比較的薄いので重ね着などもできます」
地味と言いながらも、ショッキングピンクのスカートには普通に着たら歩けないくらいのフリルがついている。
「じゃぁそれも」
「こちらもどうでしょう。一番人気で店にならぶことも殆ど無いんですが今日入荷したばかりでして。ザフトの軍服のレプリカなんです。特に白は希少価値ですが、今なら全色揃っていますよ」
「じゃぁ全部」
多方面から服の趣味があまり良いとは言われないアスランは全て店員に任せて頷いていたが、二十着ほど「じゃぁそれで」と言ったころで、疲れてきた。
服の良し悪しなど分からないのだ。
キラも眠ってしまったのか、耳をすますと寝息が聞こえる。
紹介する店員も辟易してきたのか、バトンタッチしたそうにチラチラとカウンターを眺め始めた。
「こちらも、人気は多少ありますね。えーっと…」
「あの、すみません」
「はい」
女性の瞳が終焉を求めて輝く。
「この棚の一通り包んでください」
「え?……この棚ですか?」
灰色に近い青の瞳が驚きに見開かれ、彼女の動揺を表す。
「はい」
しかし包まれた商品を見てアスランも驚くことになる。
サングラスの所為で死角になっていて気がつかなかったが、棚はアスランが思っていたよりも大きかった。
文字通り抱えきれない荷物を持ってアスランは立ち上がった。
周りで見守る店員の視線が痛い。
宅配しましょうかと言われたが、身元が明るみにでることを避けるため断るしかなかった。
それでもエレカまで運んでくれると言うことになったが、あまり多くが元場を離れることが出来なかったため、荷物を運んでくれる女性は一人だ。
一つだけ持ってもらって、結局状況は変わらない。
「あの、大丈夫ですか?私まだ持てますよ」
「いえ…女性に持たせるわけにはいきませんから」
荷物の重さというよりも痛さに眉を顰めるが、サングラスをしているので表情は女性には見えない。
どうにかドアを開けようとドアノブに手を伸ばすアスランに女性が慌てて声をかける。
「私開けます」
しかし女性が開けるよりも先にドアが開いた。
荷物の所為でとっさの反応ができなかったアスランは顔面をドアに叩かれる。
ドサリという音とともに後ろへ倒れ、荷物がばっと散らばった。
肩にかけられたショルダーバックが宙に待って落ちる。
「わっ!」
「大丈夫ですか、お客様!」
少女らしい声でしかも聞こえた場所が違ったような気がしながらも、店員はアスランへと駆け寄る。
「っ…」
強打したアスランは額を押さえて痛みに呻く。
切ったらしく手の隙間から赤い物が見えていた。
アスランの額を切ったサングラスは無残な姿となり床に散らばっている。
そういえば、大抵の店舗は入る側から押し戸になっているのだ。
自動ドアが主流なので忘れていた。
「あっ……お客様お怪我は?!」
「ご主人様、血がっ!」
店員が悲鳴に近い声を上げるのと同時に聞こえたのはキラの声だった。
アスランは傷ではなくキラの行動に慌てる。
キラは落ちたバックから上半身を出して、顔を真っ青にしている。
今にもアスランに駆け寄りそうな勢いだ。
「…アスラン?」
降ってきた声は聞き覚えのあるものだった。
見上げると、切りそろえられた銀髪が揺れ、ブルーサファイヤのような瞳が訝しげに細められている。
会うことは殆ど無かったが、それでもアスランは彼を知っていた。
「……イザーク・ジュール?」
レノアによって女装させられ彼と記念撮影されたのは思い出したくも無い記憶ワースト3だ。
そういえば、ジュールの別荘がこの地区の近くにあるという話を聞いた覚えがある。
その彼がアスランを見下ろしていた。
「人形?」
イザークの視線はアスランの散らばった荷物に向いていた。
彼の言葉にアスランは青ざめる。キラを見られてはいけない。
アスランは立ち上がってキラを隠そうとするが、店員によって阻まれた。
「じっとしてください、今止血を!」
それどころじゃないと言いたかったが、それよりも先にイザークがキラに手を伸ばす。
キラは動揺しているのか、暴れることは無い。
一応出てくる前にこういう事態に備えての練習はしてきた。
アスランはキラがそうしてくれることを願いながら、店員の手をやんわりと跳ね除けて立ち上がる。
「イザーク、離してくれ」
「はっ。貴様にこういう趣味があったとはな」
嘲笑を含んだ笑みでキラを手に取るイザーク。
キラは手と足をピンと伸ばして、固まっている。
顔は青いままだ。
「……休暇中の課題で作ったロボットだよ。お前には関係ないだろう」
言うと、キラがさっと手を上げる。硬い動きは練習の成果だ。
「コンニチハ、僕キラ」
キラがキャキャキャと人間離れした笑い声をあげると、イザークは眉を顰めながらも納得したようでそろりとバックの中にキラを戻した。
「ところでどうした。顔から血を流して?」
止血もままならず立ち上がったアスランの額からは鮮血が流れている。
痛みこそ大して無いものの出血はまだ止まっていない。
「……いらっしゃいませ!」
店員の女性は顔を真っ赤にしている。
黄色い声を上げそうな勢いでハンカチを握りしめ、イザークの顔から目が放せないでいた。
この様子ならキラのことは目に入っていないだろう。
「傷はお前のせいだよ。それは別にいいから、エレカまで一緒に運んでくれないか?」
大量に散らばった小さな衣類に気がついたイザークの視線が突き刺さるが、とりあえず危機は脱したようだった。
彼もこの店にいたことを他人には知られたくないらしく、分かり際には暗黙の契約が出来ていた。
「趣味かな…?」
アスランは呟いて、エレカを走らせた。
後部座席は荷物で埋まっている。
誰もいない家に帰り、ソファーに腰を下ろすと。かばんを開けた。
エレカの中でも用心して開けなかったので、中にいる彼はずいぶんじっとしていたことになる。
「大丈夫ですか、ご主人様?」
開けると、おどおどと出てきたキラは、アスランの顔をうかがうように覗き込んだ。
紫の瞳は不安そうに揺れている。
「大丈夫だよ、キラ。血は止まったし、すぐ治るから」
消毒をしてもらった傷を見せると、少しだけキラの頬が緩む。
「そうですか、よかった……」
「そうだ、キラ。すごく人形の真似上手だったよ」
「ありがとうございます」
ホラー映画を見て練習したかいがあった。
少し早い夕食をとりながらキラは楽しそうにアスランに話しかける。
買った服がとてもお気にめしたらしい。
彼には性別はあまり関係ないらしく選らんだ服は、フリルの多くあしらわれたドレスだ。
不思議の国のアリスをテーマとしたという服はキラによく似合っている。
どうみても少年には見えないほど可愛らしかった。
服と一緒に買った人小さな皿に並べた小さなチキンを食べながらキラは楽しそうに笑っている。
初めての外出がよほど楽しかったのだろう。
「ご主人様、今日あった人誰なんですか?」
「ああ、彼は…気にしなくていい。ところでキラ」
「なんですかご主人様?」
「そのご主人様と言うのは止めないか?俺は君の主人というわけではないし……」
アスランがずっと思っていたことだった。
愛玩具として作られたのならそう教育されているかもしれないが、キラは解放されたのだ。
いつまでもペットとして生きなくてもいい。
「えっと、でしたら何と呼べば…?」
「アスランでいいよ」
「アス…ラン様?」
「様はいらないから。母のように気軽に呼んでくれてかまわない」
「アスちゃん?」
きょとんと見上げるキラに脱力する。それだけは避けたい。
「いや、そういうことじゃなくて……。アスランだけ」
「アスラ…ン?」
キラはなれていない所為か、酷く恥ずかしそうにする。
顔が真っ赤に染まっていた。
フォークを持つ手も止まっている。
「俺はそう呼んでくれたほうが嬉しいから」
「……がんばります、アスラン」
「敬語もいいよ。キラの方が年上なんだろう?」
「…………分かった。がんばる、ね。アスラン」
急に言葉がたどたどしくなるキラに苦笑する。
慣れるのには時間が掛かりそうだ。
キラの視線がアスランからテレビに映る。
恥ずかしさに顔をそらしての行動のようだったが、そこには目を引き付けられるものがあった。
「アスラン…あれなんです…じゃなくて、あれ何?」
テレビに映るのは昼もたくさん見たランタンの数々と、白い布で作られたゴースト。
そしてさまざまな仮装をした子供が映っている。
「お昼も……見たよね?」
「ああ、あれはね。ハロウィーンって分かる?」
キラはぶんぶんと首を振る。
「死者の為のお祭りでね。と言っても今は殆ど宗教的な意味を持たないけど。子供達がお化けの仮装をしてお菓子をくれないといたずらをしますって言いながら家々を回るんだ」
「強盗?あ、あのかぼちゃは何?」
「いや、強盗とは違うかな……。かぼちゃはジャック・オ・ランタンって言ってね、ハロウィーンのキャラクターみたいなものだよ」
「え、ジャック・ザ・リッパー?」
キラの間違いをアスランは慌てて訂正する。
ランタンは腹部を切り裂くことも無ければ、腸を首にかけたりもしない。
キラは食事が終ってもずっとテレビを食い入るように見つめていた。
written by アルカロイド系/橘けろろ様&樹ひかる様