「安らぎの場所」=アスキラ+ディアミリ。種43話以降。思いっきり小話。
「不可抗力」=種戦後設定。夜這いに行って返り討ちにあうアスランの話です(!?)


■□■□■□■□■
安らぎの場所
■□■□■□■□■

「そういやさ……」

唐突にディアッカが、ボソッと呟いた。
ここはアークエンジェル。
エターナルからデータをマリューに渡すためにやってきていたキラである。
通路で偶然出くわしたディアッカとミリアリアに誘われ、食堂で珈琲を御馳走になりつつ、たわいもない会話に興じていた最中のことだ。

「うちの陣容さ、艦の陣頭指揮執ってんのって、みんな女なのな……」

「…………アレ?」

「アークエンジェルにマリュー・ラミアス、クサナギにカガリ・ユラ・アスハ、エターナルにラクス・クライン―――な?」

「そういえば……そうだね」

でもカガリは艦の実権は執ってないし、エターナルも艦長はバルトフェルトさんだけどね。
そう接いだ後、キラは小首を傾げて『それがどうかした?』と、視線でディアッカに問いかけてくる。
アスラン云うところによると、この『察して』なやりかたは、キラが相手に心開いて気を遣っていないとき特有のありがたい仕草なのだそうだ。

目は口ほどにものを言う。
まあ……こいつは特に察しやすい。
今も一口だけ口をつけたカップにジッと視線を降ろしたのは、飲んだ珈琲が苦かったのだろう、砂糖かミルクを入れようかどうしようかで悩んでいるとみた。
実は一緒に同じ煮詰まった珈琲を飲んでいるディアッカが同じ考えに至ったというだけのことなのだが。

「キラ、おまえさ。一応どれにも乗艦経験あるわけだろ。乗ってて一番安心できんのってドレ?」

「ん〜? 安心〜〜??」

どう見ても上の空。
いまだ揺れるカップの水面を凝視したまま、またたき一つで、「エターナル」。

「お、速攻だったな。そうか、ラクス嬢んとこが一番か。そうだよな〜マリュー艦長は姉ちゃんみたいだし、カガリ姫はやんちゃな妹みたいだし。ラクス嬢は最近天然ボケが影を潜めて頼り甲斐ありそうな感じするよな〜」

「へ?」

咄嗟に顔を上げてキョトンと言葉を反芻している様は、どこか稚くて笑みを誘う。

「あ、いや。そういう……え…えぇっ?」

 二人が見守る中、見る見る頬が染まっていく。

「どうかしたの、キラ?」

「う、ううんっ、何でもないっっ!」

云うなりガタンと勢いよく立ち上がる。
じゃあ僕、そろそろエターナルに戻らなくちゃっ! と立ち上がってから取ってつけたように言葉を添えて。
いまだ自分がカップを両手にしていたことに気づいて慌てふためき手を離し。
ごちそうさま〜っっっと、とりあえず躾の良さを物語る挨拶を残してあたふたと食堂を出て行った。

後に残されたのは一口しか飲んでもらえなかった煮詰まった珈琲と。
ごちそうした側、男女各1名。
通路にその華奢な背中が消えると、二人は思わず顔を見合わせた。
見つめ合うこと数十秒―――両者同時に吹き出した。

「はっは〜ん」

「ふ〜ん」

「「そ〜ゆ〜こと(か)」

キーワードは『エターナル』と『安心』。
足して導き出されるのはただ一つ。
「条件反射ってすごいねぇ」とディアッカが呟けば。
「あれは刷り込みってヤツなんじゃな〜い?」
年期入ってるもんねぇ、とクスクス笑うミリアリア。

「ほ〜んと分かりやすっ!」

「自覚しちゃったのね〜。早く帰んなきゃって感じかしら」

「天然でいいよな〜アレ」

「……欲しがってもダメよ。アレは他人様のモノなのっ!」

「ん〜別にいらない。欲しいのは目の前にあるし」

云いながらさり気なく伸ばした手に。

「―――お・あ・づ・けっ」

 伸びた手は、しっかり叩き落とされていた。


その頃キラは、エターナルへ向かう小型艇の中、ちょっとふくれっ面で。

「ああいう意味だなんて……ハッキリ云ってよ」

誰の指揮が一番だ? ってさ。
そしたら……
まあ悩んだろうけどやっぱエターナルかな。
宙域での艦隊戦はマリューさんが一番慣れてるけど、戦術や駆け引きならバルトフェルトさんが一番経験者だから。
あ、そうなるとエターナルの艦長はラクスじゃないから、やっぱアークエンジェルが一番ってこと?
 でも―――。

「『安心できるか』なんて云うから……」

そんな風に云われたら。
思い浮かぶのなんて―――。



エターナルのドッグに収容された小型艇から降り立ったキラに、声がかかった。
「キラ、お帰り」

軽い一蹴りで浮遊して、キラの隣にトンと降り立った幼馴染みは、包み込むような暖かい笑みでキラを迎えてくれて。

「……?? どうしたんだ、キラ???」

見る見る満面に朱を注いでいくキラに、アスランの表情が曇る。

「おい、顔色が……熱あるんじゃないか。具合悪いのか」

「な……何でもないっ。た、ただいまアスラン」

キラはそっとすりよって、彼の上着の裾を掴んだ。
するとアスランはまるで分かっているとでもいうように、また微笑んで。
キラの背をトントンと叩いて「疲れたろ」と促してくれた。
そうしたら自然に吐息が出て
―――ほらやっぱり。
僕が『安心できる』のなんて。
それは確かにエターナルで間違いないけど。
正確には―――思い浮かんだのは、ココ。

―――アスランの隣。



■□■□■□■□■
不可抗力
■□■□■□■□■

それは短くて。
長い夜。


恐る恐るといった控えめなインターホン。
しばしの間を置いて再度小さな音が一枚扉を隔てた部屋の中に響くのが聞こえる。
扉の外の人物はさらに耳を澄ませて中の反応を伺ったが、ウンともスンとも反応のないことに戸惑いを深くする。

「やっぱり寝てしまったかな……?」

夜もとうに更けたこの時間、それこそ熟睡していてもおかしくない。
ましてやあの泥酔状態では、ベッドまで辿り着いたかどうかも怪しいほどだ。
いや、むしろそれをこそ心配して、こうして足を運んだわけなのだが。
たまたま早く仕事がキリ上がったその日。
たまたま気心の知れたメンバーが揃っていたその日。
誰が言い出したか、彼らが住まう宿舎で久々に騒ごうという話になった
。 宿舎1Fの会合用の小さな部屋を借り切って、デリバリーした食事や軽いアルコールでしばらく歓談していたまでは良かったが。
久々だから羽を伸ばそうと云ってディアッカが取り出したその1本のボトルが問題だった。

湯と氷砂糖で割って飲むソレをキラが恐る恐る口にした時には微笑ましく思ったものだが。
度数のキツイそれが、実はそれまでノンアルコールに徹していたキラが口にした初めての酒だったとは、誰の脳裏にもインプットされていない致命的な情報だった。
甘くて美味しいと眼を輝かせた少年に、周囲は深く考えもせずこぞって次の杯を勧め、少年もまた水を飲むようにゴクゴクと煽って
―――気づけばボトルはアッという間に空いており、真っ赤な顔でのほほんと微笑む少年が一人できあがっていたのだ。

まさかこんなに酒に弱いとは思わなかったアスランが、焦って限界を問いつめると、「さ〜? 飲んだことないから知らな〜〜い」とヘラヘラ笑いが返ってきて。
そんなキラを見て、アスランは己の浅はかさに頭を抱えたものだ。
でも、だって、まさか。
16にもなったコーディネーターが酒の1杯も経験ないなどと、誰が思い至るだろう。

だが、自分が酒の味を覚えた頃、キラは中立コロニー「へリオポリス」でナチュラルたちと生活していた。
主立った人口をナチュラルで占める自治区などは、16才になって初めて成人として認めるところも多い。
20才を区切りにする国もあることを考えれば、同年代のナチュラルとつるんでいたキラに飲酒の機会が無かったのも当然なのかもしれないと、事ここに至ってアスランも納得せざるを得なかった。

だが納得したからとて、現状が好転するわけでもない。
集まっていた部屋から連れ出して、最上階のキラの部屋まで抱きかかえるようにして戻り介抱しようとしたが、いくらか意識のはっきりしてきたキラは一人で平気だと頑として主張して
―――ずいぶんと意固地に駄々を捏ねたのはアルコールの作用によるものだろう。
それはそれで頑是無い子供のようで微笑ましく、昔を思い出して懐かしい気持ちにさせられた
――一応部屋に入るのだけは見届けたのだった。


が、無事就寝したかどうか、どうにも気になって結局再度就寝前に足を向けてしまったアスランである。
極力音を消してキーを打ち込む―――と不用心なことにロックはされていなかった。
アスランは、ドアを手動開閉に切り替え、わずかな隙間だけ開けて顔だけを覗かせる。

「キラ?」

眠りを妨げまいと気遣った呼びかけは、静まりかえった薄暗い部屋に吸い込まれるように消え入った。
眠っているのかと躊躇したのは一瞬のこと。

「キラ?」

再度声を投げてドアの中へ体を滑り込ませる。
窓からほのかに差し入る月明かり。窓枠が四角く滲んで影を落とす寝床は、だが使われた気配もなく、綺麗にベッドメイクされたままだ。
求める姿がない。
つい数十分前に別れたばかりの、記憶にも新しい彼の姿がどこにも見当たらない。
何か手がかりはないかと部屋を見回した彼は、バスルームのドアからわずかに灯りが漏れていることに気づいた。

まさかアルコールの入っている身体で風呂を使っているなんてことは―――いや、キラなら何の考えもなしにやりかねない。

「キラ、いるのか?」

ためらいがちな声が、予想以上に大きく響いた。
だがやはり何の応答もない。
意を決してドアを開けたアスランは、しばらくその情景に見入った後、複雑な表情で眉間を押さえた。

「キラ……おまえってヤツは……」

たっぷりの湯に身を浸したしどけない姿をした彼の親友は、バスタブの縁に腕を投げたまま、その腕を枕にして静かな寝息を響かせていた。
穏やかな寝息から察するに、単に寝入っているだけだろう。
亜麻色の細い髪が白い額に、首筋に張り付き、真珠色のきめ細かな肌を艶めかしく彩っている。
俯いたうなじに、雫が一筋を伝って光を弾いた。
淡い光の下で見ると、霧を浴びたようなつややかな睫毛が、頬に影を落とすほど長いことに気づく。
ディアッカあたりなら「まるで生まれたてのアドニスだ」と、地球に伝わる有名な古い神話を持ち出して気障ったらしく形容しそうな一葉の情景がそこにあった。
周囲の思惑と激情に翻弄され続けた宿命の美少年アドニス―――。
風に切り揉まれる儚い花弁を想起して、あまりのマッチングに呆然とする。

「冗談にならないな……」

キラをとりまいていた実情に照らし合わせると、まさに笑い事ではない。
非現実的な一致とはいえ、そんな悲惨な人物と同一化を図っては、気分が後ろ向きになって、精神衛生上にも非常に宜しくない。
それにこの、華奢で真珠のように艶やかな肌の少年が身を横たえるのは、無粋にも大量生産のユニットバスだ。
ましてアドニスに喩えられる少年がこんなのほほんとしまりのない顔で寝こけるようでは、本物のアドニスに申し訳がたたないではないか。
全く論理的でない理由付けで自分を納得させると、アスランは改めて眼前の問題に取りかかった。

「ほら、キラ、風邪引くよ。起きて」

だが、アスランの声に反応するどころか、肩に手をかけて揺さぶっても覚醒する気配はない。
肌も唇も風呂に浸かっているにしては上気している様子でもなく、それどころか触れた肌がひんやり感じた。
湯に手を浸してみると、すでに体温を下回るほどに冷めてしまっていた。
このままでは体温を奪われるばかりで湯冷めするのは必至だ。

しかもこの髪の濡れ具合からすると、もしかしてうたた寝して一度湯船にすっぽり潜っていたり?
―――考え至った恐い想像を、だがアスランは確信して眉間を寄せた。

「キラ!」

わずかに声を荒げ、頬を軽く張ってみると、目蓋がわずかに震え、薄く目が開い―――たように見えたのだが。

「キラ……」

期待したのもつかの間、アスランを認めたのか、寝惚けただけなのか、甘えるような安堵の表情で気持ちよさそうに再度寝入ってしまう。
迷ったのは一瞬だった。
目の届くところにローブもタオルも用意されていないのを見てとると、踵を返した。
勝手知ったる部屋を漁ってバスタオルを手に戻ってくると、手際良く腕まくりして肉体労働は準備万端。

「不可抗力だからね」

聞いているとはとても思えない親友に、気持ちばかり断りを入れると、服が濡れるのもいとわず、バスタブからキラを抱き上げて、バスタオルで包みこんだ。
冷め切った肌に焦りを感じながら、抱き上げた体を寝台まで運ぼうとして……。

「クシュンッ」

「キラ?」

 腕の中でわずかに跳ねた髪に、慌てて顔を覗き込んだが、目はピッタリと閉ざされたまま。
さすがのアスランも、今度こそ逡巡する。
いまからバスの湯を抜いて新たにお湯を張っていたのでは時間がかかりすぎる。
かといって布団に押し込んだところで冷え切った身体が早々簡単に暖まるとも思えない。
そもそもキラはコーディネーターのくせに寒がりで、幼年学校時代、真冬には靴下を履いて寝ていたし、冬場の教室では手袋が欲しいと真剣に豪語していたほどだ。

「―――ってそれどころじゃない」

腕が痺れてきてハタと現実に立ち返った。
重い荷物を抱えたまま、とりあえずソファに腰を下ろす。
今度の決断は早かった。

「まず髪の毛を乾かそう」

ドライヤーを使っているうちに、熱で体温も上がってくるだろうし、騒音で目を覚ましてくれれば万々歳だ。
準備を済ませ、キラの頭を膝の上に抱き上げるとドライヤーのスイッチを入れた。
静寂を押しやって騒音が部屋を満たす。
耳元でこれだけやかましくされては、さすがに平然と寝入ってもいられなかったのか、キラが眉間を寄せながら薄目を開けた。
覗き込むアスランと視線が合う。
が、熱風に吹かれながら小首を傾げる様からして―――状況を把握しているとは到底思えなかった。

「目、覚めた? キラ」

「…………」

「お風呂で寝てたら風邪引くだろ?」

「…………」

ぽえ〜っと。
アスランの顔を見つめたまま、キラは沈黙している。

「ちゃんと起き―――え、キラ?」

ふいにニッコリと、子供のようなあどけない笑みを浮かべたかと思うと、両腕をアスランの腰に回してがっしりと縋りついた。

「ちょっと、何、キラ??」

驚いてその腕を掴もうと髪を梳いていた手が離れた途端、駄々を捏ねるように首を振るキラ。

「手ぇ止めちゃヤッ。……あったか……て……気持ちい……」

スリスリと自分の膝に頬ずりしているその生物。
アスランは呆れと感心の入り交じったまなざしでしみじみそれを眺めやった。
しばしの観察の後、口を突いたのは―――

「――――――ご満悦なんだね、キラ……」

なんだか未知の生き物を相手にしているよう心地だが、これはこれで―――可愛いと云えないこともない。
正気のキラではとてもお目にかかれない離れ業でもあるから、拝見できた自分は貴重な体験をさせてもらっているということになるのだろうし―――

「まあ……役得と思っておくよ」

青色吐息でボソッと本音を吐く。
再び濡れた髪に温風をあてて梳いてやると、膝の上の物体はされるがままに大人しくなった。
髪がサラサラと温風になびく頃には規則正しい寝息までたてている始末。
冷えていた肩にも風をあてて暖めてやると、熟睡してしまったようで、膝が重くなってきた。

後は着替えさせてベッドに押し込めばお役御免だと、用なしになったドライヤーを脇に寄せて、完全に寝入った重い身体を抱えあげようとした―――のだ、が。


「キラ。手、離してよ……」

がっしりと腰に回された腕が外れない。

「ちょっとキラ……オレは湯たんぽじゃないんだから」

幼少時代、キラの家にあった独特な暖房器具の名称を上げて、背中に回った腕を解こうとするが、いつのまにやらシャツの裾を背後でしっかと握られてしまっているのに気づいて途方に暮れる。

「もう! 起きろ、この酔っぱらいっ!!」

耳元で怒鳴った途端に
―――はっくしゅんっ!
盛大なクシャミが飛んで。
モゾモゾと足を引き寄せてさらに引っ付いてくる酒浸しのナマモノ。

「その姿勢辛くないの?」

と抗議してみても、届かぬ耳には虚しいだけ。
溜息と一緒にくだした結論は。

「だから」

―――不可抗力だからね。



なんだか凄く温(ぬく)かった。
俯せたお腹側だけ。
正確には右側半分。
なんだかとっても弾力性があって段差のある寝床……。

キラの手が無意識にさわさわと撫でる。
と、そんなキラの背中をひんやりしたものが滑って、ゾクッと背筋を駆け抜けた痺れに体を硬直させる。

何、何、何??????

唐突に眼をパッチリと開けると、細い腕が視界に入る。
見覚えがある。
なまっちろいそれは自分のものに間違いない。
だがその腕が視界に触れていること自体が何か違う。
自分はこのガリガリの腕が嫌いで、長袖ばかり着ていたはずだ。

その隠すべき腕が―――ってアレ?
再度右手が寝床を滑る。
寝床?―――
自分が蝉のように抱きついてるコレって―――
―――っっっ!?
再び素肌を優しく撫でられる感触に、身体が跳ねた。

「キラ、ホント痩せすぎ」

骨がゴツゴツしてて乗っけてる方も痛いったらないよ。
頭上から降ってきた掠れ気味の声は、過ぎるほどに聞き慣れた声で。

「良く寝てたね。どうだった、オレの肉布団は?」

「に、にくぶとん……」

言葉の羅列を変換処理できずに、口が勝手に反復する。
ひんやりした手が今度は頭にソッと触れてきて、「二日酔いは? 頭痛はしない??」。

「別に何も……」

「そう。その辺はコーディネーターの恩恵にあやかれて良かったね。ナチュラルだったら撃沈だったろうから」

頭を撫でられる感触が、首筋に触れる冷ややかな指の刺激が心地よくて、ほぐれる身体に引きずられるようにして思考を放棄―――しかけて我に返る。
突如ガバッと起きあがったキラは、だがハラリと落ちたケットが素肌から滑り落ちる感触に、自然と視線を下ろした。


なんでだろう。
どうしてだろう。
何があったんだろう。
どうしてこうなってるんだろう。

訳が分からずパニックした頭にも、一つだけ明確な判断ができる。
自分に分からないことは、全部この男が知っている。
「アスラン……」

現実から視線を引きはがして、向けた視線の先、全く動じる気配のないアスランに疑問を提示する。

「どうして僕、すっぽんぽんなの……」

「―――不可抗力」

「だから何でっ?」

「オレは被害者」

「だからどうしてっ!?」

「浴槽で溺死予備軍だったおまえを救出して、風邪引きそうだったおまえの髪を乾かしてやって、さあ寝間着着せて布団に押し込んでお役目御免しようとしたら、おまえがオレのことを湯たんぽ扱いして引っ付いて離してくれないもんだから服は着せられないわ、布団にも放り出せないわで仕方なくオレがおまえの布団代わりにココに泊まったんだが―――」

一息に流れるような事情報告のあと、

「―――何か文句でも?」

「…………ありません」

「―――で? 他にオレに聞きたいことは?」

「…………ありません」

「―――で?」

ニッコリ笑うアスランのお腹の上で。
身を縮こませて深々と平身低頭。

「ごめんなさい。お世話になりました」

「どういたしまして」

いつもならそれでお終い―――だったりするんだけど。
でも。
……どうしよう。
キラは俯いたまま、二人の間に沈黙が落ちる。

「キラ、どいて?」

状況は分かって。
お礼も言って。
でもやっぱり……


「えぇとアスラン……ごめん、ね」

「もういいよ。飲ませたオレたちも悪い」

「うん。それもだけど……えっとごめんなさい、コレ……」

「別に朝だし。それこそ不可抗力だろ?」

「うん。それはすっごく分かるんだけど……」

それだけとは思えないし、とキラは頬を赤く染めて俯いて。

「やっぱり……ごめんなさい」

当たっているものがものだけに。
アスランは求めたりしないだろうけど―――これって9割方自分のせいだし。
朝陽の中、視線は明後日、ちょっと声は潜め気味で。

「あのさ……お礼しても、いいかな?」

これも不可抗力ってことにしておいてよ、ね?

written by Stone:あさかちあき様

文字でキラらぶTOPへ
TOPへ戻る


UpData 2006/01/27
(C)Copy Right, 2005 RakkoSEED.All right reserved
【禁】無断転載・無断記載